できそこないの巫女は桜に舞う

5/8

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
「待って!あの扇はダメよ!あれは私の唯一の宝物…」 「うるさいわね!華やかな私の方が合うんだから、化物が使うなんておこがましいのよ!」 閑に取り縋ろうと立ち上がった途端に、閑に突き飛ばされ、閑が隠し持っていた短刀で髪を切られた! 腰まであって、この髪だけは自慢だった。 私に何の恨みがあるのよ! 舞扇を貸さなかったから? 結局、舞扇は閑に取り上げられて、私は泣くしかできなかった。 とうとう豊作豊水祈願の日がやってきた。 朝から外が騒がしい。 私は何だか肌がピリピリと痛んで、閑と一緒に踊ることはできず、豊水祈願の舞だけ踊ることになった。 どのみち舞扇がないから、形にならないし、きっと珍妙な踊りと思われて終わりだろう。 そっと社の扉を少しだけ開けて外を見ると、舞の為の舞台とそれを見にきた人達がいる。 見にきた人達の中で特に目立つ美しい二人の男性が、特別に設えた席に着いていることから、たぶん麒麟様と…もう一人は…大物主様!? 煌びやかな麒麟様に比べて、大物主様は黒を基調にした着物で、でも全然暗い感じじゃなく、重厚で上品さと静謐さがある。 神々しさがあるのに、目が離せないわ…。 もっと見ていたいけど、巫女は舞の時まで姿を見せてはいけないから、舞の時までじっとしていないと…。 私は静かに扉を閉めて、舞の時まで目を閉じて黙想をしながら待つことにした。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加