薄幸乙女は愛される

4/9

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
いけないいけない。 ユキのことを思い出していたら、幸彦さんのことをないがしろにしてしまったわ。 「あの…幸彦さんは勉強はいいんですか?私のことは気にせず勉強に集中なさってください」 「僕は息抜き中です。毎日机に向かうと頭がこんがらがってしまうのですよ」 「まぁ、幸彦さんったら!」 思わず声を出して笑う。 幸彦さんは私を笑わせてくれる楽しい方だわ。 「やっと笑ってくれた。壱玖さんは笑っている方が素敵です」 「っ!お、お上手ですね!」 胸が凄くドキドキしている。 幸彦さんは気を遣ってくれただけなのに…! 「お上手?僕は本心から言ったのですが…」 「えっ!?」 期待させないで。 私も期待しないから…。 ユキの時みたいに急に離れ離れになりたくないの。 幸彦さんの笑顔にこれ以上は応えられない。 私は表情が乏しいから。 そしてユキに悪い気がする…だってユキが最初に私に世界を教えてくれた人だから…。 寝室に戻ろうかと思った時に、部屋と廊下を隔てていた襖が勢いよく開けられる。 「幸彦さん、一緒にカフェーに行く約束していたのに、まだ離れにいらしたの?活動写真も観に行きたいのに」 「都与(トヨ)さん…。僕は勉強がありますので今日は…」
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加