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いけないいけない。
ユキのことを思い出していたら、幸彦さんのことをないがしろにしてしまったわ。
「あの…幸彦さんは勉強はいいんですか?私のことは気にせず勉強に集中なさってください」
「僕は息抜き中です。毎日机に向かうと頭がこんがらがってしまうのですよ」
「まぁ、幸彦さんったら!」
思わず声を出して笑う。
幸彦さんは私を笑わせてくれる楽しい方だわ。
「やっと笑ってくれた。壱玖さんは笑っている方が素敵です」
「っ!お、お上手ですね!」
胸が凄くドキドキしている。
幸彦さんは気を遣ってくれただけなのに…!
「お上手?僕は本心から言ったのですが…」
「えっ!?」
期待させないで。
私も期待しないから…。
ユキの時みたいに急に離れ離れになりたくないの。
幸彦さんの笑顔にこれ以上は応えられない。
私は表情が乏しいから。
そしてユキに悪い気がする…だってユキが最初に私に世界を教えてくれた人だから…。
寝室に戻ろうかと思った時に、部屋と廊下を隔てていた襖が勢いよく開けられる。
「幸彦さん、一緒にカフェーに行く約束していたのに、まだ離れにいらしたの?活動写真も観に行きたいのに」
「都与(トヨ)さん…。僕は勉強がありますので今日は…」
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