薄幸乙女は愛される

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「たまには息抜きをしないと!幸彦さんは勉強を頑張りすぎよ!ほら行きましょう!お姉さんごきげんよう」 「ええ…いってらっしゃい…」 継妹の都与と幸彦さんの並んだ姿は、素敵な絵画のようで、私が入るなんておこがましい。 そうよね、私にはユキとの思い出がある。 それだけでいいわ…。 誰もいない部屋で、寝室から裁縫道具と作りかけの浴衣を持ってきて、ちまちまと縫っていく。 この浴衣は幸彦さんのもの。 幸彦さんが寝間着にしている浴衣は擦り切れているから、新しい浴衣がいいかなと思って。 木綿の布は都与がいらないと言って、私に投げ付けた木綿の洋服をほどいて作り変えた。 私は洋服も着物もいらない。 そもそも外に出ないんだから、このいつも着ている古い着物でも問題ないもの。 ずっとこのまま…何も変わらず、移る季節を見て、そのまま死んでいくだけの人生なんだわ。 こんな気味悪い私なんかいなくても誰も悲しまないから…。 私は何故、裁ち鋏を持っていたのか。 それを何故、手首に当てたのか。 痛みを微かに感じながら、赤くなった手首を見たのを最後に意識は途切れた。 「ありがとうございました…」 「いえいえ。発見が早かったことと、応急処置ができていたことが、お嬢様が助かった要因ですよ」
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