1.二度目は好きにならない

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 振り払ったつもりなのに、タイミング悪くクラッと眩暈がして、颯の指が諒大の鼻の穴にぶっ刺さる。 「すっ、すみませんっ……」  ちゃんと謝ったのに、諒大の顔が怖い。それもそのはず。鼻に指をぶっ込んだらせっかくのイケメンが台無しだ。 「許さない。俺がこの日をどれだけ待ち望んでいたかわかりますか。目の前にいるのに触れてもいけないなんて耐えられない……」 「は……?」  鼻に指を突っ込まれながらも、まったく動じず、真面目な姿勢を崩さない諒大の態度に、颯の血の気が引いたとき、救急隊員が到着した。  救急隊員たちは、颯と諒大の身体を引き剥がし、あれよあれよと手際よく颯の容体をトリアージしていく。 「骨折などは無いようですが、怪我の治療と、一時意識を失うほど頭部外傷が激しかったようですのでCT撮ったほうがいいですね。とりあえず救急車に運びます」  今度は担架に乗せられて、ご丁寧に運ばれていく。そしてなぜかもれなく諒大がついてくる。  諒大がごくごく自然に救急車に乗り込もうとして救急隊員に止められる。 「ご家族のかたですか?」  救急隊員の言葉に、颯が「その人は——」と説明しようとしたときだ。 「はい。そうです」  真顔でしれっと嘘をつく諒大。その堂々たる姿に尊敬すら覚える。颯の心の中は、いや、この人はさっき出会ったばかりの他人なんですけどとザワザワしている。 「颯っ、安心しろ俺がついてる。吐き気はないか? どこか変に痛むところは?」  諒大は救急車のベッドに横たわる颯のそばから離れない。  あの、救急隊員さんの邪魔です。お願いだからそばにべったり張りつかないで。 「うう……っ」  急に胸が苦しくなって颯は身体を丸くしてうずくまる。 「颯、大丈夫か! これ、人工呼吸、必要ですかっ?」 「要りません。大丈夫ですよ。ご主人、慌てすぎです」  ちょっと待って。具合が悪いからあんまりよく考えられないけど、ツッコミどころが多すぎる。  いつの間にか名前呼びされているし、どう考えてもこの状況で人工呼吸なんていらない。  それに、いつから諒大が颯のご主人になったのだろう。  それから病院に到着するまで、救急車の中では、「喉は乾いてないか」「背中さすろうか」などと散々甘やかされた。側から見ていた救急隊員たちも諒大の態度に迷惑だとも言えなかったのか、「ご主人にとても愛されてますね」と引き攣った笑顔を浮かべていた。
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