1.二度目は好きにならない

1/16
1055人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ

1.二度目は好きにならない

 最初からこうなることは、わかっていた。  わかっていたのに、気づかないふりをして目を背けていた。  ここは雰囲気のいい、夜のライトアップされた海沿いのショッピングモール。七瀬颯(ななせはやと)が、結婚間近の恋人・西宮諒大(にしみやりょうた)と初めて会った思い出の場所だ。  六月の梅雨の時期だったが、夕方には雨が上がった。  風に当たりながら少しだけ話をしようと諒大に誘われて、海の見渡せるオープンデッキをふたり並んで歩いていた。ふたりのあいだに会話はない。無言で歩いていたが、直前までは重苦しい雰囲気はなかった。 「ごめんなさい。俺からのプロポーズ、なかったことにしてもらえませんか?」  海へと降りていく長い階段の手前で諒大が立ち止まる。  プロポーズをなかったことにする。そう諒大に言われて颯は意外にも冷静だった。こうなることはなんとなく勘づいていたからだ。  颯の人生は、どうせうまくいかないことが決まっている。叶わない夢なんて見ても虚しいだけ。最近では願うことすらやめてしまった。 (やっぱり、振られた)  アルファの諒大はオメガの颯の運命の番だ。今から三ヶ月前、ちょうどまさにこの場所で出会ってから運命のふたりはあっという間に恋に落ちた。  諒大にぐいぐい迫られ、三回目のデートであっという間にプロポーズ。信じられない出来事だったが、ネットで検索すると、運命の番は交際ゼロ日婚ということもありえると書いてあったから、珍しいことではないのかと颯も諒大のプロポーズを受け入れた。 (運命の番に振られるって、相当だよね……)  颯は諒大とお付き合いをする中で佐江遥香(さえはるか)の存在を知ってしまった。  オメガ女性の佐江はアルファの諒大と同じ年の幼馴染で、颯と諒大が出会う前まではふたりいつも一緒、どう見ても恋人関係にしか見えないような親しい関係だったらしい。  幼いころから仲のよかったアルファとオメガがいて、そこへ颯という存在が突然現れた。つまり颯は、運命の番を理由に諒大と惹かれ合い、ふたりの仲を引き裂いたオメガということになる。 (諒大さん。僕じゃなくて、佐江さんが好きだったんだろうな……)  諒大は完璧な恋人で、颯の前では、気持ちのない素振りは一切なかった。  仕事が忙しくても颯のために時間を割いて会いにきてくれるし、記念日も忘れない。会えば優しくて、夜には愛を囁いてくれて、あれで実は他のオメガを想っていただなんて信じられないくらいに素晴らしい恋人だった。  諒大はアルファだから、時間の管理も上手で、多忙なのにも関わらず、ふたりのオメガとの二股ができたのかもしれない。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!