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邦知は一条の涙を流しながら首を横に振った。周りのサクラ達も教授の事情を直接目の当たりにしたことにより貰い泣きで涙を流していた。
「君の名前を『さくら』と決めたのは、丁度今ぐらいの桜が咲く時期に生まれたからなんだよ。君が生まれたのもこの病院で、産婦人科の窓から見下ろしたらこの桜の木が綺麗に咲いていたから、君もそんな子になって欲しいと思ったんだ。だからね、私にとっては君のお見舞いに行くだけでお花見だったんだよ。出来れば、もっといっぱいお花見をしたかったな」
「仕方ないよ。あたしが病院に入院してるだけでお金かかるし、お父さんもお仕事しなきゃいけないし」
そう言うと、さくらは額を押さえながら急に俯いた。
「あ…… あれ? ちょっと目眩してきたかな? 心臓もバクバクしてる…… ちょっと、寝たいかも…… ごめんね、お父さん。天国で待ってるね……」
その日の夜、さくらは天国へと旅立った。
葬儀が終わり四月を迎えた頃、邦知は病院の中庭にて満開となった桜の木を見上げながら呟いた。
「やっぱり『さくら』は綺麗だな」
おわり
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