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そして、時は流れ翌年の三月。邦知はさくらの担当医に病院に呼び出された。
担当医は俯き神妙な顔をしながら述べた。
「今日は、お忙しい中お呼び立てして申し訳ありません。さくらさんのことで言わなければならないことがあります」
「もしかして、心臓の移植の件ですか?」
さくらの心臓であるが、完治のためには移植が必要である。
もしかして、その心臓が見つかったと言うのだろうか。
邦知はその心臓の持ち主には申し訳ないと思いつつも、さくらが生きられるのならと喜びの感情を覚えてしまった。
しかし、担当医は首を横に振った。
「いえ、もう保たないのです。これまで姑息的に延命治療を続けてきたのですが、もう限界なのです」
「あ、あの…… 娘は…… さくらはいつまで……?」
「今月いっぱいが峠です。峠を越えることは奇跡としか言いようがありません」
なんということだ。邦知はさくらの残り少ない命を憂うことしか出来なかった。そして、担当医に向かって深々と頭を下げた。
「その日まで、娘をお願いします」
担当医は自分の無力さを嘆くことしか出来なかった。
「最善は尽くします」
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