お父さんとお花見に行きたくて

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 時の関白『藤原道隆』が積善寺で一切経供養を行うことになった。一切経供養とは一切経と言うお経を写経して奉納する儀式のことである。 その儀式に藤原道隆の娘の中宮定子が臨席することになり、内裏から実家の二条御所に里帰りすることになった。二条御所には一本の桜の木、それも満開になって立っていた。  時は二月の二十一日、桜が咲いている訳がない。梅が咲いている時期である。中宮定子に同行していた清少納言が「奇妙だな?」と思い桜をよく見れば、桜の花びらは全て作り物。藤原道隆が里帰りしてきた娘を喜ばせようと誂えた桜の木だったのである。 しかし、その日の夜に大雨が降り紙で出来た桜の花びらは見るも哀れなものに。  藤原道隆は慌てて使用人に命じて桜の木を撤去させた。中宮定子は朝起きたら木が消えており吃驚するのであった。偶然にも早起きをして、使用人が桜を撤去する現場を見ていた清少納言は、藤原道隆のメンツを守るために『春風の仕業でしょう』と誤魔化した。 清少納言はそのような話を枕草子の二百七十八段に(したた)めている。  邦知は「こんな時に何故?」と、思いつつもその説明を淀みなくスラスラと行うのであった。 「あの、演劇部に友達がいまして。それと、あたしの友達を何人か呼び出しますので、先生の講義受けてる子もいるので協力してくれると思います」学生はそう言うと、邦知に妙案の説明を行った。  妙案は枕草子の二百七十八段ままに大胆不敵極まりないものだった。だが、三月下旬にお花見をするにはこの手しかない。 「頼む」
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