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一枚一枚確認しながら、遊戯王カードをケースにしまっていく。誰になんと言われようとブルーアイズかっこいいんだよなあ、初代マジリスペクト、なんて思いながら僕は、兄の言葉に耳を傾けたのだった。
「エイプリルフールについちゃいけない嘘?そんなの決まってんじゃん。人を傷つけたり苦しめるような嘘は駄目ってみんな言ってるよ」
「ああ、うんそれも間違ってない。例えば“●●が死んだ”とか“●●が入院した”とか人を本気でびびらせるような嘘とか。あと、過剰に喜ばせてがっかりするような嘘も駄目だよな。●●が芸能人としてスカウトされたとか宝くじ当たったとか」
「うんうん」
男子小学生は、こういう嘘を面白がる傾向にもある。実際、悪気がなくて近所の友達や親戚相手にしょうもない嘘をついてしまい、こっぴどく叱られた経験が僕にも兄にもあったはずだ。それ以来、なんとなく僕達の間では“エイプリルフールは嘘ついていい日とか言われながら、結局嘘ついたら怒られる日”という印象しかないのである。
というか、我が家ではこの小さなイベントは封印モードにあるとばかり思っていたのだが。
「傷つけるとかすぐばれるとか、そういうの抜きにして絶対言っちゃいけない嘘があるんだって。ネットで俺、見たんだ」
カードの枚数を数えつつ言う兄。
「なんでも“●●が生きている”って嘘らしい」
「生きている?死んだ、じゃなくて?」
「うん。誰かが死んだ、って嘘もそりゃひでえんだけどさ。生きている、って嘘の方が絶対駄目なんだそうだ。正確には、エイプリルフールには絶対ついちゃいけない嘘らしい。なんでなのかは知らん。他の日には言ってもいいってのも意味不明だし」
「ふーん」
少しだけ興味がある。僕は心の中のメモに追加した。
昔から怪談とかオバケとか結構好きな質だったのである。兄とも一緒に何度も悪ふざけをしたものだ。夜の小学校にも、肝試しという名目で過去五回くらいは忍び込んでいる(そして全部バレて叱られている。)。
「その嘘をついたら、何か悪いことが起きるのかな」
僕の言葉に、意図を察してか、兄がにやりと笑った。
「かもな?死んだ奴が生き返ったりして」
「それ、場合によっては相手を普通に喜ばせるじゃん。悪いことなんもないよね?僕、試してみよっかな」
「おう、やったれやったれ。でもって結果報告しろ」
「おっけ」
心当たりがあった。同じマンションに住んでいる小学三年生、京弥。彼相手で実験をしようと思ったのである。
何故なら今年の冬、彼の家のハムスターが亡くなったばかりであったのだから。
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