いきている、いきている。

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 ***  ハムスターの寿命は非常に短いと言われている。大型のゴールデンハムスターでも精々三年程度であるそうだ。そういう意味では、京弥の家のハムスター“きなこ”はかなり長生きした方だろう。なんせ、三年と半年も生きたのだから。  ちなみに、小型のハムスターはもっと寿命が短く、精々二年程度であると聞く。何でこんなに命が短いのかといえば、心臓が早く打ちすぎるからと聴いたことがある。人間を含め哺乳類は、一生のうちに心臓が打つ回数というのが決まっているらしい。ハムスターはなんと一分間のうちに五百回くらいも鼓動を鳴らすのだそうだ。そりゃあ、早く寿命も消費してしまうというものだろう。  京弥はきなこのことを可愛がっていたはずだ。面白半分というのもあるが、もし嘘をつくことできなこが生き返るなら喜ぶだろうと思ったのである。悪気ゼロだったとは言わないが、一応善意もあったのだと言い訳しておくことにする。  僕はゲームを片付けると、その足で自宅を出た。  僕達一家は、マンションの四階に住んでいる。うちのマンションは六階建てで、一階は塾のテナントが入っていて誰も住んでいない。京弥たちが住んでいるのは二階だ。同じマンションには他にも数人子供達が住んでいて、コロナ渦でも関係なく彼等とはマンション内で遊ぶことが少なくなかったのだった。京弥相手も例外ではない。  特に彼の場合は幼稚園の頃から気心が知れた仲でもある。突然アポなしに自宅を訪れることくらい、珍しくもなんともなかったのだった。 「こんにちは、雄馬」  一人で部屋を訪ねた僕に、京弥は目を丸くして言ったのだった。 「遊びに来てくれたの?あ、ごめんもうちょっとだけ待っててくれる?今日、お父さんもお母さんもいなくって……姉ちゃんは部活行ってるし、一人でご飯作らないといけないんだ。カップ麺食べてるところだから、待っててくれると嬉しいんだけど」 「あ、ごめん京弥。今日はちょっと実験しにきただけだから、あんま気にしないでくれ」 「実験?」 「うん」  部屋の奥からは、カップ麺のいい匂いがする。多分、お湯を入れたところだったのだろう。僕は特に気負うこともなく、あっさりと告げたのだった。 「なあ、お前、ハムスターのきなこ飼ってたよな。冬に死んじゃったっていう」
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