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2人でゆっくり歩いて、立ち止まったのは小さい頃美桜とよく来ていた公園のベンチの前だった。
おばさんはそのベンチにゆっくりと腰を下ろした。
俺もそれに倣って、おばさんの隣に座った。
「……私も、今のあの子には何て声を掛ければ良いか分からないの。学校での様子は分からないけれど、私達の前では心配掛けないように無理に明るく振舞って……それが、何だか辛くて見ていられなくて……」
おばさんが何を言っているのか分からない。
でも、たった1つ分かった事は、転校とかそんな簡単なものじゃないって事。
ただ転校するだけで、恐らくこんな事は言わない。
もっと、もっと重い何かがあるんだ。
美桜を苦しめているもっと重い何かが。
「美桜は奏くんや他の子の前ではどんな感じなの?」
「……他の奴らの前でどんな様子かは分かりませんけど、俺は避けられてます。何で避けられてるのか分からなくて、今日問いただそうとしたら逃げられました」
さっき美桜に言われた言葉が、胸に突き刺さる。
嘘だと分かっていても、やっぱり堪えるものがある。
「……そう。あの子は、もしかしたらいつか来る別れの日の為に今から準備しているのかもしれないわね」
「別れ……?」
やっぱり、おばさんの言っている事が分からない。
美桜の身に、一体何が起きているって言うんだ。
「あの、一体美桜に何があったんですか? いい加減、教えてください」
俺は内心イライラしながら、おばさんに聞いた。
でもおばさんは首を振った。
「ごめんなさい。言えないわ。あの子が、自分から話すまで、私からは言えない。もう少し、もう少しだけ待ってあげて。あの子がちゃんと受け入れられるまで、もう少しだけ待っていて欲しいの」
今すぐにでも聞きたかった。
美桜の身に何か起こっているのなら、美桜を苦しめているものがあるのなら俺がそれを取ってやりたかった。
だけど、おばさんが俺に涙ながらに頭を下げるからそれ以上何も聞けなかった。
さっきの美桜と、同じ顔をしていたから。
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