四月一日

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四月一日

 四月一日、エイプリルフール。  午前に嘘をつき午後に嘘を明かす日。  子供も大人も関係なく嘘をつけるなんて、私にとっては最高の日。  結婚して子供が生まれ、母親になって。  赤ちゃんのお世話でエイプリルフールどころじゃなかったけど、今年は夫に嘘をつく。 「朝からハンバーグか」 「悪いお肉が手に入ったからね」  ニコニコと笑みを浮かべながら言えば「キミの嘘はわかりやすいな」と笑い、朝食を済ませた夫は仕事へ向かう。  付き合ってから今まで、私は毎年四月一日には夫に嘘をついていた。  旦那は簡単に見破ってしまうけど、今回は大丈夫そう。  夫が仕事から帰ってきて、食卓にハンバーグを乗せたお皿を置けば「夜もか」なんて少し苦笑いをされた。  仕事から帰宅してきてからのネタばらしになるから、本来のエイプリルフールより遅めの答え。  夫は私のネタバラシを聞くと、顔を真っ青にして口元を片手で覆った。  私を見る瞳が、いつものエイプリルフールと違うけど、初めて夫を騙すことができて私は満足。 「な、なんで……」 「ん? 何が?」  私も椅子に座りハンバーグを食べる。  やっぱり、本当の事を言ってそれを嘘だと思わせるやり方は正解だったみたい。  夫は朝の私の言葉を嘘だと思っていたけど、あの言葉は本当。  その後、夫の通報でやってきた警察に捕まった私は、警察の質問に対して正直に答えた。 「泣いてばかりの赤ちゃんは悪いお肉ですから」  エイプリルフールが終わった今、嘘はもうお終い。  可愛くて憎らしい私の赤ちゃん。  私と夫のお腹に入って生まれる前に戻るだけ。  警察に連れられ病院で検査されて、精神的な疲労なんて言われたけど、私はずっと笑顔のまま。  エイプリルフールのあの日から、私はずっと笑ってる。  何で周りは難しい顔をしているんだろう。  嘘をついていい日に私は嘘をついただけ。  赤ちゃんもお腹に戻って夫には嘘が成功した。  こんなにも嬉しいのに何で周りは私をそんな目で見るんだろう。 「よって被告人は、正常な判断ができる状態ではなかったことから——」  裁判所に連れて来られたと思ったら、正常な判断ってなんだろう。  もしかしたら、これは夫の嘘なのかもしれない。  私は高らかに「エイプリルフールはもう終わったよ」と笑い声を響かせた。 《完》
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