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三月三十一日、朝。
生徒玄関前に一枚のポスターが張り出されていた。
『エイプリルフール企画!【とんでもないウソを投稿しよう!】』
投稿された中から特にとんでもないウソだった上位三つが選ばれて、四月一日に発表されるらしい。
六年生が考えた企画らしくて、一緒に置いてある箱に入れれば良いみたいだ。
五年二組の教室で、俺と友達二人はすぐにノートの切れ端に【とんでもないウソ】とやらを書き始めた。
「なあ、ユウスケはどんなウソにする?」
一見頭が良さそうな眼鏡をかけたマナブが聞いてくる。
俺は書き終えて折りたたんだメモを隠してニヤッと笑った。
「それはヒミツ!」
「えー? じゃあカナトは? なんて書いた?」
俺の答えに不満そうなため息を吐くと、マナブはもう一人の友達に話しかける。
「俺? そうだな、みんなが幸せになれそうなウソかな?」
優しそうな柔らかい笑顔で答えるカナトに、俺は軽くため息をついた。
俺とカナトは幼稚園の頃から一緒にいるいわば幼なじみだ。
昔は泣き虫で、いつも俺が守ってやってた。
でもそんなカナトは最近優しいからって女子に人気で、俺としてはちょっと面白くない。
「幸せになりそうなウソ? カナト、お前本当に選ばれる気あんの?」
マナブはカナトの答えも不満みたいで、もういいやとばかりに机に向かった。
そういうマナブはどんなウソを書くつもりなんだろうな?
ちょっと気になるけど、まあいいや。
俺のウソはトップ3に選ばれる自信あるからな!
まだ書いてる途中のマナブを見て、俺は先に鉛筆を筆箱に戻す。
ちょっと勢いをつけて入れたせいか、机の上に置いていたメモがフワッと浮いて落ちてしまった。
「あ、やべっ」
立ち上がって追いかけるけど、メモは女子が数人集まってるところまで行ってしまう。
その中の一人が、俺のメモに気づいて拾ってくれた。
「これ、ユウスケくんの? はい、どうぞ」
「あ、ありがと、ユミちゃん」
長い黒髪をいつもハーフアップにしてる大人しめの女子、ユミちゃん。
かわいい笑顔でメモを渡されて、俺は思わずドキッと心臓がはねた。
ユミちゃんはすぐに友達との会話に戻ったけれど、俺は名残惜しい気分でマナブたちのところに戻る。
せっかくだからもうちょっとユミちゃんと話していたかったな、とか思ったから。
ぶっちゃけると、俺はユミちゃんが好きだ。
女子たちが俺のこと乱暴者だとかって悪口言ってたとき、ユミちゃんが「でも頼もしいところもあるよね」って言ってくれた。
そのときから気になって見ていたら、ちょっとした仕草とか女の子らしくてかわいいなって思って……。
「ユウスケ、マナブも書いたよ。出しに行こう」
戻って来た俺にカナトが声を掛ける。
でも俺はついムスッとしてカナトを見た。
女子に人気のあるカナト。
実はこの間ユミちゃんがカナトのこと「優しいし、結構イケメンだよね」って話してるのを聞いた。
俺がカナトを気に入らない一番の理由はそれなんだ。
「ユウスケ? どうした? 行くぞ!」
反応しない俺にマナブが教室から出ようと先に向かう。
「あ! 先行くなよ、マナブ!」
カナトと二人でマナブを追いかけるように教室を出て、俺は密かに意気込んだ。
これで俺が一番になって、みんなにすごいって思わせてやるんだ。
ユミちゃんにも「こんなすごいウソ考えつくなんてユーモアあるね」とか言ってもらえたりするかもだしな!
***
三月三十一日、夕方。
帰りの会で担任の深月先生が話した内容に俺は絶句した。
「朝、生徒玄関前に設置されていたエイプリルフール企画というポスターですが、学校の許可も無く六年生が企画したものでも無かったので取り払いました」
どういうこと? とちょっと騒がしくなる教室の中で、カナトが手を上げて質問する。
「六年生が企画したものじゃないって、じゃあ誰があのポスター貼ったんですか?」
「わかりません。でも、六年生でないことは確かです」
深月先生の答えに「えー?」と教室が騒がしくなる。
そんな中今度はマナブが手を上げた。
「えっと……じゃあ結果発表とかはないんですか?」
「そういうことになります。さ、これで帰りの会は終わりです。日直さん、お願いします」
深月先生は淡々と答えて、すぐにエイプリルフール企画の話を終えてしまう。
俺とカナトとマナブは、三人顔を見合わせて肩を落とした。
***
四月一日、朝。
教室で俺はイスの背もたれに体をあずけて溶けるように座っていた。
「あーあ、せっかく考えたウソなのになー」
俺と同じようにぐでーっとイスに座っているマナブが力なく文句を口にする。
そこにカナトが「仕方ないよ」と困ったように笑う。
「それに誰が始めたかわからないなら、どっちにしろ発表なんてなかっただろうし」
不満だけど、カナトの言うとおりだ。
いつまでも過ぎたことをぐちぐち言ってらんないし、俺も「そうだな」って同意した。
「じゃあさ、お前らどんなウソ書いたんだ?」
勢いよくガタンとイスを鳴らして前のめりになったマナブが聞いてくる。
確かに発表する機会もないし、せっかくだから教えるか。
「ああ、俺は――」
ピーンポーンパーンポーン
答えようとしたとき、突然校内放送を知らせるチャイムが鳴る。
こんな時間に鳴るなんて珍しい。
そろそろ朝の会が始まる時間だってのに。
でも深月先生も来てないし……なにかあったのか?
疑問に思ったところで、知らない声がスピーカーから聞こえてきた。
『みなさん、おはようございます! 本日はエイプリルフール。昨日は企画への投稿ありがとうございました!』
「へ?」
男の人の声に驚いたのは俺だけじゃないはずだ。
だって、その企画とやらは無くなったって深月先生が言ってたから。
『ですが残念なことに、理解のない先生方に早くも投稿箱を取り下げられてしまいました』
理解のない先生方? ってことはこの声は先生の誰かじゃないのか?
明らかに大人の声だけど……。
『そのため投稿は少なかったのですが、幸いにも三通入っていました。なので、その三通を第三位から発表しようと思います!』
三通ってことは俺たちの書いたウソかな?
ってか本当にコイツ誰なんだ?
不審に思っていたら、放送の声は丁度自己紹介し始める。
『申し遅れましたがワタクシ、ウソを真実にするトゥルーと申します。発表されたウソを真実にしてお見せしますネ!』
星マークでもつきそうな明るい口調に、俺は「は?」と口を開けた。
でも、それはみんなも同じでザワザワと騒がしくなる。
マナブも声の主――トゥルーをバカにするように笑った。
「ウソを真実にって。出来ないことだってあるのに、こいつなに言ってんの?」
「だよなぁ」
特に俺のウソは非現実的だから本当になんて出来るわけない。
『では、早速三位から発表させていただきます!』
とにもかくにも始まった発表。
俺のは何位かな? ってちょっと期待する。
『三位は……他にも投稿があったら選ばなかったですね、この手のウソは面白みがない。【空から食べる飴が降ってくる】です!』
「あ、これ俺のだ」
発表されたウソにカナトが反応した。
そういえば『みんなが幸せになれそうなウソ』とか言ってたっけ?
「ええ? これ、本当に飴が降ってくるの?」
少し離れたところからユミちゃんの声が聞こえた。
そうだ、このまま発表されて俺のウソが一位だったらちょっとは自慢しても良いかな?
一位取れるとかすごいって言われるかな?
そう思うとふよふよと口元がゆるんだ。
でも、そんな気持ちはすぐになくなってしまう。
「え? ウソだろ? ホントに飴降ってねぇか!?」
窓にへばりついてる男子の声に、俺もみんなも窓の外を見る。
そうして見えた光景に、思わず「マジか」とつぶやいた。
みんな窓に近づいて、俺も瞬きしながら外を見る。
中庭が見下ろせる窓の外には、個包装された飴がそれこそ天気の雨みたいに降り落ちていた。
「あ! 一年生外出てるぞ!?」
「ホントだ。早速飴食べてるよ。いいのかな?」
下を見ると確かに一年生の姿が見える。
一年生の教室は一階だから、外に出やすかったんだろうな。
「俺、様子見てくるよ」
「は? カナト?」
言うが早いかカナトは教室を出て行ってしまった。
それにつられてか、他のクラスメートも次々出て行く。
「ユウスケ、俺たちも行こうぜ!」
なんだかワクワクしている様子のマナブにも誘われて、俺も教室を出る。
外に行くと本当に飴が降っていて、早くも地面は個包装された飴で埋め尽くされていた。
「これどうやって降らせてるんだろうな?」
「さあ? ヘリコプター使ってるとか?」
適当に言ってみたけど、ヘリの音なんかしないし違うだろうなって思う。
でも他に思いつかないし……。
とりあえず、せっかくの飴だし俺たちも拾い集めることにした。
しばらくして、全校生徒が外に出てきちゃったんじゃないかってくらい大勢になった頃。
ピーンポーンパーンポーン
また放送のチャイムが鳴って、トゥルーの声が聞こえてきた。
『みなさん、楽しんでいますか? そろそろ第二位の発表をしたいと思います!』
その言葉に俺は口に入れてた飴を飲み込みそうになった。
そうだ、発表はまだ終わってなかったんだ!
「次、俺とユウスケのどっちかだよな? どっちかな? 次のも本当になんのかな?」
「さあな」
ワクワクしてるマナブに俺は軽く返した。
マナブは自分のウソが本当になったらいいとでも思ってんのかな?
俺のはなって欲しくはないんだけど……いや、それ以前に本当になるわけないけど。
『第二位は、これはワタクシもちょっとワクワクしています! 【昆虫が大量発生して学校内を飛び回る】です!』
「は? 昆虫?」
覚えのないウソにマナブの考えたものだってわかる。
でも、昆虫なんてこの時期そんなにいないだろ。
今回はいくら何でも本当には出来ないなって思っていたのに……。
ヴゥーン
なんか、虫の飛ぶ音が聞こえたと思ったら腕に何かが止まる。
なんだ? って見ると、それはカブトムシだった。
「は? カブトムシ? まだ春だぞ?」
春のカブトムシって、まだ幼虫で土の中にいるもんだろ?
なのに、腕に止まっているのは焦げ茶色の成虫だった。
「きゃー! オニヤンマの大群だー!」
「やだ! ハチこないでー!」
突然の悲鳴に周りを見ると、さっきまで飴を集めていた生徒たちがいきなり出てきた昆虫に追いかけられてパニックになってた。
逃げ回りながら、少しでも安全そうな校舎内に入って行く。
「何なんだよオニヤンマって、今の時期ヤゴだろ? どうやってこんなに……」
理解出来なくて、あり得ないウソがしっかり本当になっていることが恐ろしかった。
「すっげぇ! マジで本当になった!」
マナブは昆虫好きだからか、目をキラキラさせて俺の腕についたカブトムシを捕る。
そりゃあこんなウソ書くわけだよ。
俺も昆虫は好きな方だけど、マナブみたいに喜んでるわけにはいかない。
だって、このまま行けば一位は俺のウソだ。
もしあのウソが本当になってしまったら?
ゾッとした。
だって、あれは現実じゃないから面白いのであって、本当になってしまったら恐怖しかない。
マズイ! あのトゥルーって奴を止めないと!
「マナブ! 放送室行くぞ!」
「は? 何だよ、もっと捕まえようぜ?」
不満そうなマナブの腕を掴んで引っ張る。
何としてでも一位の発表をさせるわけにはいかない。
「このままだと次は俺のウソだろ? あれは本当にするわけにはいかないんだよ!」
「はぁ!? ユウスケ、お前どんなウソ書いたんだよ!」
「……」
半分怒ってるようなマナブの言葉に、俺は答えを口に出来なかった。
***
「ちくしょう! 放送委員は!? 鍵持ってただろ!?」
「早く止めないと!」
放送室前に行くと数人の六年生がすでにいた。
あのトゥルーって奴を止めようとしてるみたいだ。
最上級生が率先して止めようとしてくれてることに俺はホッとした。
六年生の放送委員の人が鍵を持っていたらしくて、すぐに鍵のかかっていた放送室は開けられた。
けど……。
「え? なんで誰もいないんだよ?」
放送室は、もぬけの殻だった。
「何なんだ? どっか行ったのか?」
「さあ……とにかくいないんならもう終わりってことじゃないか?」
おかしいなと思いつつ、放送室に誰もいないことでもう終わったんだって雰囲気が漂う。
でも。
ピーンポーンパーンポーン
突然、校内放送のチャイムが鳴る。
その場にいたみんながチャイムのボタンがある機材の方を見たけど、機材の前には誰もいなくて……。
『さて、みなさん楽しんでいますか? ワタクシは楽しいデスヨ! 良い悲鳴が聞こえてきました』
なのに、校内放送でトゥルーの声は学校中に響き渡った。
今の時期いないはずの昆虫を大量発生させたり、放送室にいないのに校内放送をしていたり。
トゥルーという男の得体の知れなさにゾグリと震えた。
『それでは第一位の発表です! これぞまさに【とんでもないウソ】! ワタクシ、このようなウソを求めていたのです!』
「や、やめっ!」
思わず止めようと声を上げるけど、届くはずがなく……。
『【先生たちがゾンビになって生徒たちを襲う!】。さあ、恐怖の悲鳴をワタクシに捧げてくださいネ!』
俺のウソは発表されてしまった。
生徒たちの悲鳴を楽しみにしている得体の知れないトゥルー。
悪魔みたいなやつだって思った。
「え? 先生たちがゾンビ?」
「俺たちを襲うって……」
「……ユウスケ」
六年生たちが戸惑いの声を上げる中、マナブが信じられないものを見る目を俺に向けていた。
「と、とにかく学校の外に助けを求めよう!」
「あと下級生守らないと。一年生は一番教室が職員室に近いだろ?」
さすが六年生。
戸惑いながらも最上級生としてやるべきことを考えてくれてる。
「おい、お前たちは高学年に教室に立てこもるよう伝えとけ! 俺たちは低学年を守ったり、外に助けを求めるから!」
「は、はい!」
六年生たちは俺たちに指示を出すとすぐに放送室を飛び出した。
取り残された俺たちも、すぐに走り出す。
「なんてウソ書いたんだよ、ユウスケ!」
「し、仕方ねぇだろ!? こんなことになるとは思わなかったんだから!」
責めるマナブに言い返す。
そうだよ、仕方ないじゃん。
俺のせいじゃない。俺は悪くない……はずだ。
「色々文句は言いたいけどそれどころじゃないからな。俺は五、六年の教室回って伝えるから、ユウスケは四年生の教室頼むぞ!?」
「わ、わかった」
自分は悪くないと思いながらも、多少の罪悪感はあったからマナブの指示に素直に従った。
四年生の教室がある廊下を走って立てこもるように伝えた俺は、ちょっとだけ低学年の教室の方にも向かってみる。
六年生が行ったから大丈夫だとは思うけど、もし本当に先生たちがゾンビになってて低学年の子が襲われてたら罪悪感がハンパなくて……。
でも俺だって怖いから、ちょっと様子を見るだけのつもりだった。
けど。
「やだぁー!」
「助けてー!」
「こっちだよ!」
「は、早く来いよ! お、おお、置いてくぞ!?」
悲鳴を上げる一年生二人と、カナトとユミちゃんが何かから逃げているところに鉢合わせした。
カナトたちを追いかけているのは深月先生っぽい。
でも、なんか様子がおかしい。
目が血走ってて、口からはよだれがたれてて。
血の気が全くない青白い顔の深月先生は、フラフラしながら歩いていた。
本当にゾンビになっちゃってるのか?
「カナト! こっちだ!」
「っ!? ユウスケ?」
俺はカナトたちを呼び寄せて近くの空き教室に入り込むと、ドアにつっかえ棒をして深月先生が入ってこれないようにした。
四人が息を整えるのを待っていたら、突然カナトに胸ぐらを掴まれる。
「ユウスケ! お前なんてウソ書いたんだよ!? 先生たち、マジでゾンビみたいになってるぞ!?」
「っ!?」
カナトは昔の泣き虫に戻ってるみたいに目からボロボロと涙を流して俺を非難する。
「え? この一位のウソってユウスケくんが書いたの?」
「っ!」
ユミちゃんにも知られてしまって、俺は肯定も否定も出来ずに黙り込んでしまう。
「どうするんだよ!? このままじゃ俺たちっ……ひっく、先生たちに食われて――」
ガタン!
「ひぃっ!?」
恐怖が勝ったのか本格的に泣き出したカナトだけど、空き教室のドアがガタガタと鳴って悲鳴を上げた。
音はどんどん増えて、入ってこようとしてるのが深月先生だけじゃないのがわかる。
カナトは俺から手を離して、ユミちゃんと一年生が固まってるところに行って丸くなった。
すごく怯えてる一年生やユミちゃんの顔を見て、やっぱり罪悪感が沸く。
「ごめん、俺がこんなウソ書かなかったら……でも、その代わりお前たちは守るから」
「ユウスケくん?」
少しでも罪滅ぼしにって決意を込めて言うと、ユミちゃんが何か言いたそうに俺を呼ぶ。
でも、ドアのつっかえ棒がついに外れてしまった。
「あががぁ……」
言葉にならないうめき声を上げながら、先生たちが何人も入ってくる。
「俺が引き留めるから! カナト、お前はユミちゃんたちを――」
「ひぃい!」
カナトにユミちゃんたちを連れて逃げてもらおうとしたけど、カナトは怖がって悲鳴を上げ、しかも自分の身を守るためにユミちゃんを突き飛ばしやがった。
「え? きゃあ!」
突き飛ばされたユミちゃんは深月先生にぶつかり、カナトはその横を通って一人だけ空き教室から出て行ってしまった。
「ユミちゃん!」
俺はとっさにユミちゃんの腕を掴んで引き寄せ、守るように抱き込んだ。
背中を向けた俺の肩を深月先生の手が痛いくらいに掴む。
怖かったけど、ユミちゃんや一年生が助かるように時間稼ぎだけでも出来ればいいやって思う。
六年生が早く助けを呼んできてくれることを願いながら痛みへの覚悟を決めた。
でもそのとき。
ピーンポーンパーンポーン
また、校内放送のチャイムが鳴る。
『あー、残念。もっと悲鳴を頂きたかったのですが、時間切れとなってしまいました』
あの悪魔のようなトゥルーの声が聞こえた。
残念と言いながらも楽しそうだ。
『ある国ではエイプリルフールのウソは午前中だけと決められていましてね、ワタクシはそのルールに縛られているのですよ。ですからこの美しきウソの世界も今このときまで』
「……え?」
『みなさん、美しい恐怖の悲鳴をありがとうございました! ではさようなら!』
別れの挨拶が響き渡ると、もう校内放送で声は聞こえなくなっていた。
すると、俺の肩を掴んでいた手から力が抜ける。
「え? ユウスケくんとユミさん? 一年生まで、どうしたの?」
いつもの深月先生の声に振り返ると、戸惑う先生の顔があった。
目は血走ってないし、頬にも赤みがある。
ゾンビじゃない。
ホッとして力を抜くと、深月先生は周りを見て更に驚く。
「え? 教頭先生も何故ここに? っていうかもうお昼!? どうして!?」
そのまま他の先生たちと話し出した深月先生を見て、もう本当に大丈夫なんだなって安心した。
「……あの、ユウスケくん? 離してくれない?」
「え? あ、ごめん!」
抱き込んだままだったユミちゃんを慌てて離す。
ヤバ、とっさに抱き締めてた。
悪かったなって思うけど、柔らかいユミちゃんについドキドキしてしまう。
でももう嫌われちゃったよな。俺のせいで怖い思いしたんだし。
トホホ、と内心悲しんでいるとユミちゃんが俺を真っ直ぐに見た。
「守ってくれてありがとう」
「あ、いや……でも俺のせいでもあるし」
「確かにとんでもないウソだったね。……でも、本当になるなんて誰も思わないもん、仕方ないよ」
「ユミちゃん……」
俺が悪いって言わないユミちゃんに、なんかすごい感動した。
カワイイし優しい子だなって思ってたけど、こんなときまで優しいなんて……。
ヤバイ、もっと好きになったかも。
「それに、さ。守ってくれたユウスケくん……すっごくカッコ良かったよ?」
「っ!?」
頬を染めて照れながら伝えてくれたユミちゃん。
その様子もカワイイけど、俺のことカッコイイって……。
ヤバッ、心臓バクバクする。
なんか、とんでもないことがあったけど……ちょっとだけユミちゃんとの距離が縮まった日だった。
これは、ウソじゃないよな?
了
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