彼岸花の妖精という素晴らしい相棒(健人視点)

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そして、僕に描いて描いてと言わんばかりにスケッチブックを俺の腕に押し付けた。 「分かった分かった」 僕は頼まれた通り、彼岸花の花を描いて渡してあげた。 彼は絵を受け取ると、唇が当たりそうな距離まで絵を自分の顔に近づけて見ている。 よっぽど気に入ったらしい。 さて、どうしたものか。 彼は自分の名前を彼岸花と言ったが、他に情報は一切無い。 声は出せないようだし、文字が書けないのか会話は基本絵だ。 情報を引き出す術が無く困っていた。 写真に撮ってSNSに上げる事も考えたが、迷子になったペットと人間の子とではわけが違う。 非常に危険なやり方な気がする。 ましてや他人の子供を勝手に投稿なんてしたら本当の親に訴えられかねない。 僕が策を考えていると、彼に服の裾を引っ張られた。 「ん?」 僕と目が合うやいなや突然彼は俺の目の前から消えた。 いや、違う。 変化したのだ、彼岸花の花に。 僕は夢を見ているんじゃないかと頬をつねる。 だけど痛みはちゃんとある。 それに、僕の目の前に突如として現れた彼岸花の花はぴょんぴょんと飛び跳ね、意志を感じる。 どういう事だ……? そして、また彼岸花の花から人の姿に彼は変化した。 ぽかんとしている僕に彼は小さな冊子を渡した。 表紙にはこう書かれていた、『彼岸花の妖精をパートナーに迎える方へ』と。 「つまり、君はこの公園でずっと……その、フラワーパートナーとやらを探しているという事?」 渡された冊子を一通り読んだ僕からの質問に彼は頷いた。 目の前にいるこの子は人の子ではなかった。 この公園に咲き誇っている彼岸花の花から生まれた生命体、いわば彼岸花の妖精らしい。 花から生まれる妖精は世界にある花の数ほどいるという。 花から生まれた妖精達はみんな人間の子供のような姿形をしていて、性格も多種多様。 ただ、一つ共通して言えるのはみんなある使命のために生まれているという事だった。 その使命というのが辛い何かを抱えている人間達を彼らの力を以て幸せにする事。 妖精達に選ばれたパートナーをフラワーパートナーという。
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