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「動くな。手を上げろ」
4月1日a.m.7:00、僕の部屋に押し入ってきたのは銃を持った物騒な警官だった。僕は咄嗟にオーバーなリアクションをして証拠品の入ったケースを机の反対側に落として隠蔽する。
ゆっくりと手を上げると、いかつい表情をした警官がブランド物の真っ黒なサングラス越しに僕を睨みつけていた。
「な、なんですか。僕、警察の方にお世話になるような悪いことは何もしていません!」
「確かにお前はまだ悪いことをしていない。だが、する予定だった。そして私は警察ではない、AFESだ」
「AFES?」
「April Fool Eradication Squadーー即ちエイプリルフール撲滅隊だ。未来からやってきた我々はエイプリルフールに上手いジョークの一つも言えないつまらん奴が吐いた言葉で心を痛める民草を救っている」
酷い言いようだ。しかし、誓って僕は人を傷つける嘘をつくつもりはない。というか、エイプリルフール自体やるつもりはなかったのに。僕が困惑した表情をしていると、警官ーーいや、AFESの人は流暢な発音でこう言った。
「リピート、アフターミー。”お前のこと、実は好きじゃなかったんだは言わない”」
「”お前のこと、実は好きじゃなかったんだは言わない”ーーなんですかコレ」
「初心者はすぐやらかすからな。ネガティブなメッセージはNGだ。愛情の試し行為は高度な技術だからな。素人にはまだ早い」
僕は社会人でそれなりに恋愛経験もあるのに、素人呼ばわりは無礼極まりない。
「では次、”付き合おう、結婚しようは言わない”」
「ッ......なんでですか?」
僕は言葉を詰まらせる。
「馬鹿野郎! 本気かどうかわからないだろう! どうせ”年度はじめだし今後結婚記念日がわかりやすい”などと思っているだろうが、言われた方は悩むからな」
ふむ。
「あ、あと、毎年祝おうと思っても忙しい時期だから良くないと思うわけだ」
僕は思ったよりも前向きな発言に安堵する。
「......あの、いつが宜しいでしょうか?」
「ふむ。同棲している彼女の誕生日がすぐ近くだろう。その日にすると良い」
こうして自称AFESはサングラスを僕の小物入れに返し、模造銃を僕の押し入れに置いて、隣の部屋に帰って行った。警察風の制服は自前らしい。
「まぁ......NOではないってことね」
僕は机の反対側から婚約指輪のケースを回収する。こいつの出番は再来週になりそうだ。
ーーおわり
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