春喰み

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「どうだった?お花見、楽しめたかい?」  いつもの部屋で、いつものように上原先輩が回転椅子を回して話しかけてきた。 「はい!……その……」 「ん?」  僕はもじもじとしたあと、勇気を出して切り出した。 「今回のは、先輩、わざと行かせたんですか?」  ……と言って、先輩の顔を見る。  その目は、とても優しかった。 「…………ふふ。そうかもしれないね」 「先輩────」  僕が何かを言おうとしたとき、先輩が先に口を開いた。 「あぁ、そうだ。お団子は美味しかったかな?」 「えっ!は、はいっ!」  やっぱり手作りは違うなぁ、と思い出しながら答えた。 「ピンクだっただろう?」 「はい」 「三色団子のピンクは、『春』を表してるらしいよ」  先輩はPCの方を見て、カチカチとマウスをクリックした。表示されたサイトには、確かにそんなことが書かれている。 「春……ですか」  そう言って、僕は先生が言いそうな言葉が一瞬で出てきた。 「『春を喰む』…………あっ」  するりと口から出た言葉に、思わず口を塞ぐ。 「ははは!面白いことを言うねぇ。確かに黒池ちゃんには似合わない言葉かもしれないけど、それはあの人に教えてもらった考え方だろう?大事にしなさいな」  ……………………………………。  先輩とは思えない正しい言葉に、僕はフリーズしてしまった。 「ん?どしたの?」 「い、いえっ!次は先輩も一緒に行きましょう?ね!」 「???……はは、考えておくよ!次はBBQ?それとも海かな〜?」  先輩は笑い、扉を閉めた。  これにて、お開き!
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