春喰み

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春喰み

「ふんふふふ〜ん♪」  ニヤニヤが治まらない。  思わず鼻歌も出てしまう。  その姿を見て、師匠は上原先輩の方に向かっていった。 「上原……」 「ん〜?何だい?珍しいねぇ」  キィ、と音がしたのでそちらを見てみると、師匠は上原先輩専用部屋に入っていくところだった。確かに先輩の言うとおり、師匠が先輩の部屋に入るのは珍しい。 「黒池が朝からキモい……」 「ええ〜?」  そう言って先輩はこちらを見た。 「んー……たまにあるじゃん、そういう時。ね!黒池ちゃん!」 「え!?な、な、無い、ですッ……よ!?」  僕は気持ち悪くなんかないです!とばかりに騒ぐ。先輩はそれを見てケラケラと笑い、引き出しからチラシを取り出した。  遠くから見た感じ、ピンク色の印刷がされている。何だろうか。 「ははは!黒池ちゃん、これ、俺の代わりに行ってきてくんないかな?」 「ええ?また僕がですか!?」  そう言いつつもチラシを受け取る。  内容は……『お花見』……お花見だ!? 「ど、どういう風の吹き回しですか!?こんな、僕を労るような……」  いつも僕に面倒事を押し付ける先輩とは思えないムーブだ。感動して泣けてくる。  僕は嬉しいのと困惑を顔に表し、先輩とチラシを交互に見た。 「それはね、ただのお花見じゃない!なんと…………」 「な、なんと?」  先輩は座ったまま「フッフッフッ……」と笑った。 「警備のお仕事だ!!」 「やっぱり……」  やっぱり……。  ……あ、声にも出ちゃってた。  ま、まぁ、先輩のことだ。普通に「休んでおいで〜」とか言うわけないよね。 「日程は書いてある通り、今週末だ。軽食でも何でも、考えておくといいよ。『お花見』には変わりないんだしさ!」  それはそうだ。いつも仕事仕事でほぼ部屋の中と職場と家を行き来するばかりで、桜なんて見る機会はほとんど無い。幻の桜は師匠が出すときもあるが、最近はめっきり出してくれないし……。  と、師匠をチラッと見た。 「ん?オレも行くぞ?」  師匠は僕の視線に気づいたのか、腕を組んでこちらを見た。 「そ、そうですよね!桜といえば師匠なんですから!では先輩、師匠と2人になるんですね!」 「うん、そうだね。元々俺に向けられた仕事だったんだし、そこまで体力を使うものじゃないはずだ。若い黒池ちゃんとリストなら、余裕でこなせるはずだよ!」
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