春喰み

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 当日。  僕は師匠を連れて、花見会場へと向かった。  当然といえば当然だが────  客が!  すごい! 「すっごい人混みですね、師匠!」  思わず声も大きくなってしまう。 「危ないので、手を離さないでくださいね」 「当たり前だ……!」  子供サイズの師匠は、ソフト帽を脱ぎ、踏まれまいと手に持ったマントに包んで必死についてきていた。かわいい。 「……それより黒池」 「なんっ……です、かっ?」  僕は人々の間を縫うように進んでいるので、少し詰まったような声が出た。 「その箱は?」  師匠は僕の手にあるタッパーを指した。 「ああ、これですか?」  いい感じの場所を見つけ、息をついた。  そのまま説明をするとしよう。 「これは魅鷺ちゃんに頼まれたものです。桜は料理に使えますからね」  魅鷺と書いて『みさき』と呼ぶ。  妹も難しい読み方だが、先輩は『みさちゃん』と呼んでいる。いい感じに抜け道を見つけてる……。 「ふぅん……桜を……ねぇ」  師匠は半分くらい興味無さそうだ。桜の魔法を使うのは師匠の方だというのに……。もしかして、桜自体にはあまり興味が無いのだろうか? 「むしってはいけませんので、舞い落ちる瞬間を狙いましょう!」 「お前、それはなかなか難し────」  僕はタッパーの蓋を開き、目の前を舞い落ちる桜の花びらに向けた。  ヒラヒラとタッパーの中へと落ちていく。 「…………くはないのか」 「ん?何ですか?師匠」  僕は蓋を閉めながら師匠を見た。 「いや、何でもない」 「?」  僕は、何か言ってたのになぁ……と前を見ると、向こうの方で言い争いをしているのが見えた。 「あっ!問題発生ですよ、師匠!行きましょう!」  僕は袖に『警備』と書かれた黄色の腕章を付け、言い争いに飛び込んだ。  師匠はやれやれまったく……と首を振り、僕のコートの端を掴んだ。
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