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「今日はエイプリルフールだからね。エイプリルフールは一日中僕は嘘をつくよ」
田中がとても嬉しそうに言う。
いつも嘘ばかり言っている田中だが、さすがに「いつも嘘ばかり」は言葉の綾みたいなもので、普段は少しは本当のことも言う。
そんな田中にとって、嘘をつくことが公に許されるエイプリルフールは、まさに面目躍如なのだろうが……。
「おい、田中。お前、ちょっと間違ってるぞ」
ニヤリと笑みを浮かべながら、僕は横からツッコミを入れた。
いわゆる嘘つきのパラドックスというやつだ。
例えば「自分は今嘘を言っている」と言う者がいた場合。「嘘を言っている」という行為が本当ならば、その瞬間に言っていること、つまり発言内容は嘘のはず。しかしその発言内容こそが「嘘を言っている」なのだから、それが嘘ならば本当のことを言っていることになり、前提だった「『嘘を言っている』という行為が本当」と矛盾する。
逆に「嘘を言っている」という行為を嘘と仮定して始めても同じで、嘘を言うという行為が嘘ならば本当のことを言っていることになるが、本当のことを言っているのであれば、それは「嘘を言っている」という発言内容に矛盾するのだ。
だからパラドックスとなるわけだが……。
田中はニヤニヤと笑うだけで、僕に反論しようとしない。
代わりに、別の友人にポンと肩を叩かれた。
「いや、今日だったら『嘘つきのパラドックス』は当てはまらないだろ? お前、また田中に騙されてるじゃないか。今日は3月31日、まだエイプリルフールじゃないぞ」
「あっ……」
なるほど、確かに田中が言ったのは「今日一日中嘘をつく」ではなく「エイプリルフールは一日中嘘をつく」だった。
明日の話ならば、何の矛盾もないわけか!
(「エイプリルフールのパラドックス」完)
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