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「子供好きでさ、どこか出掛けても迷子とか見ると放って置けないタイプで、優しいっていうか世話焼きっていうか」
「いい人、だったんだね」
「あぁ。……大切、だったよ」
照れもなく率直な気持ちを口にする。
その優しい眼差しに、先生にとってどれほど大切な存在なのかが伝わってくる。
「俺はずっと、自分は幸せになる権利なんてないって思ってた」
「……どうして?」
「守れなかったんだ。あの日、俺の手は葉月の手を掴めなかった。
そんな俺が葉月を忘れて前に進むなんてできないって概念に縛りつけられてた」
先生はずっとこうして、自分を責めて苦しんでいたんだ。
なにか言葉をかけようともしたけれど、真っ直ぐに墓石と向かい合う彼に余計な言葉はいらないだろう。
「けど、そうじゃないって知った。
“忘れないこと”と“悔やみ続けること”は別物なんだと、お前らが教えてくれた。ありがとな」
お前ら、というのは私や成田先生のことなのだろう。
微笑みながら、先生が頭を撫でてくれる。
それだけで、私は幸せだ。
思わず溢れかけた涙をぐっと堪えて、お線香を供えて手を合わせた。
葉月さん、見ていますか?
櫻井先生の、この笑顔。
頼りない私じゃ彼の役に立てるかなんてわからないけれど、幸せにしてあげたいと思っています。
貰った以上の幸せを、先生にあげたいと思います。
だから、見守っていてください。
ダメな時は、叱ってください。
どうか、どうか、あなたも笑顔でいてください。
心の中で葉月さんに話しかけながらしばらく手を合わせていると、不意に背後から微かな足音が聞こえた。
誰か来たのだろうかと目を開け振り向くと、そこには50代後半くらいの夫婦の姿があった。
「一至くん……?」
呼ばれた名前に振り向いた先生は、夫婦を見ると少し驚いて口を開いた。
「……お久しぶりです」
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