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霊園の敷地内にある、小さな喫茶店。
暖房の効いたその店内の隅の席で、私と櫻井先生は隣り合って席に着いていた。
目の前には、先程お墓で行き会った夫婦……葉月さんのご両親を迎えて。
「久しぶりね。こうして顔を合わせるのは何年ぶりかしら」
「俺が大学卒業するより前だから、6年ぶりですかね」
「もうそんなに経っていたか。一至くんも大きくなるわけだ」
「そんなに変わらないですよ」
ニコニコと優しい口調で話すのは、ふっくらとしたお母さんと、白髪混じりの短髪をしたお父さん。
穏やかな雰囲気のふたりに対し、櫻井先生もいつもより柔らかな口調で話している。
「今は、お仕事は?」
「都内の高校で教師をしています」
「そう。あの頃言ってた通りの職に就けたのね、おめでとう」
「まだまだ半人前ですけどね」
話しながらご両親は、先生から私に視線を向けた。
「そちらの方は?」
「えっ、あっ、はい!」
ふたりの目が一気にこちらに向いて、私は緊張からピッと姿勢を正す。
「ひ、日野あかりと申します。櫻井せ……えっと、この方とは、その……」
櫻井先生、という言い方をしてはいけない。
けれどどう呼んでいいかわからない。
おまけに関係性までどう説明すればいいかもわからない。
どうしよう。なんて言えばいい?
私の好きな人?
恋人未満?
これから付き合う予定の人?
どんな形でも、亡くなった恋人である葉月さんのご両親の前で無神経じゃないかな。
「えと……」
そんな思いから言葉を詰まらせる私に、テーブルの下で先生はそっと私の手を握る。
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