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「俺の、大切な人です」
躊躇うことなく言うその言葉とひんやりとした大きな手が、『大丈夫』と言ってくれている気がした。
うれしさと恥ずかしさから頬が熱くなり黙る私に、目の前のご両親は少し驚いてから笑顔を見せた。
「……そう」
それは、安心感を表すように。
よかった、笑顔が見られて。
不快な気持ちにはなってない、ということかな。
心の中で安心していると、櫻井先生の方からヴー……とスマホが震える音がした。
「電話?」
「あ……はい、学校の方から」
「あら大変。お仕事のことだろうし気にせず出て」
「すみません」
着信画面には学校名が表示されているのが見える。
恐らく仕事関係の電話なのだろう。先生は申し訳なさそうに電話を取り席を外す。
日曜に学校から電話……急用なんだろうな。
そう思いつつ、その席には私と葉月さんのご両親の三人だけが残されていることに気づいた。
き、気まずい……!!
会話の途切れた中、目の前にはコーヒーカップから立つ湯気が揺れる。
「あかりさん、でしたっけ」
「はっはい!」
突然呼ばれた名前に顔を上げると、相変わらずの笑顔のままの葉月さんのお母さんに、緊張感は微かに和らぐ。
「随分お若いのね。いくつ?」
「えっと……は、ハタチ、です」
「ハタチ!本当に若い、一至くんもやるなぁ」
すみません、嘘をつきました……!
でもここで『18歳の高校生です』とは言えない。
ズキズキと痛む良心を抱えながら苦笑いをした私に、ふたりは楽しそうに話した。
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