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3月初めの金曜日。
まだ桜が咲くには少しだけ肌寒く、けれど少しずつ春の花々が咲き始めた頃。
前日までの雨はすっかり上がり、グラウンドに残った小さな水たまりには、青い空が映り込んでいた。
体育館のステージ上に掲げられた『卒業証書授与式』の文字を見ながら、胸に花をつけた私たち3年生は高校生活最後の日を迎えていた。
「あー、終わっちゃったー」
無事卒業式とホームルームを終え、緊張感や感動的な雰囲気から解放された私たちは、まだにぎわう教室内で荷物をまとめた。
「もうこの学校にくるのも、制服着るのも最後かぁ。寂しい」
「ね。さすがにホームルームのときちょっと泣いちゃった」
「でもうちら以上に東が泣いてたけどね」
さるるんと瞳とともに話しながら笑った。
教室で話す、たわいもないこの光景ももう最後と思うとやっぱり寂しい。
だけど泣いてしまわないように、笑顔を維持した。
「このあとクラスで打ち上げあるって。あかりも猿田も行くでしょ?」
「もちろん!」
さるるんに続いて頷いてから、私は教室の時計を軽く見て口を開く。
「あ、私ちょっと用あるから先に行ってて。
打ち上げって駅前のカラオケだよね?あとで合流する」
「うんわかった。部屋番号、あとで送っておくよ」
そして一度ふたりと別れると、私は鞄を手にして教室を出る。
その足で校舎一階へと下り、別棟へ向かい……数学準備室へとやってきた。
ドアをトントンとノックして声をかけると、中からは「はい」と短い返事がした。
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