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「櫻井先生」
ドアを開けるとそこには、黒いスーツに緑色のネクタイを締めた先生が立っていた。
開けられた窓から入り込む春風が、白いカーテンをふわりと揺らしている。
「じゃーん、卒業証書!」
鞄から取り出した卒業証書を開いて見せる。
そこにはきちんと私の名前が書かれており、正真正銘、高校を卒業した証だ。
「よかったな。卒業おめでとう」
「ありがと。ちゃんと卒業できたから、改めて言いにきたよ」
晴れ晴れとした気持ちで、先生に向き合って立つと、息をひとつ吸い込んだ。
「櫻井先生、大好き。
だから私と一緒に生きてください!」
勢いのいい告白に、櫻井先生は「ふっ」と吹き出すように笑う。
「まるでプロポーズだな」
「あっ確かに!」
おかしそうに言いながら、私に向かって右手を伸ばす。
そして腕を軽く引くと私の体を抱きしめた。
「……好きだよ、あかり」
耳元で小さな声でささやくと、ゆっくり顔は近づいて、そっと唇が重なった。
これから何年、何十年と続く未来が、明るいものでありますように。
その未来の中で、願わくば彼とともに。
暖かな春を、何度でも迎えられますように。
end.
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