五月雨

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学校は自宅から電車でふた駅ほど、さらにそこから徒歩10分の位置にある。 「あーかりっ」 正門を通ったところで、名前を呼ばれると同時に後ろから背中をドンと叩かれた。 不意打ちの衝撃に少し驚いて振り向くと、そこには友達の瞳とさるるんがいた。 「瞳、さるるんも。おはよー」 「おはよ。なんかあかりと会うの久しぶりじゃん?」 「あかり連休全部バイト入れてるんだもん!一緒に遊びたかったのにー」 口を尖らせて拗ねるように言うさるるんに笑って謝りながら、3人横並びで歩いて行く。 ふたりは高校に入ってできた親友だ。 すらりとした長身に明るい茶髪のストレートヘア、つり目が特徴の西川瞳(にしかわ ひとみ)は、さっぱりとした性格で面倒見のいい姉御肌。 小柄な体に黒髪ショートボブと丸い目が愛らしい猿田那岐(さるた なぎ)ことさるるんは、かわいいものが大好きで甘えっ子な妹タイプ。 私含め3人とも性格も趣味も違うけれど、なんとなく雰囲気があって仲良くなった。 ふたりとなにげない話をするのも、学校にくる楽しみのひとつだ。 「あ。東だ」 ふたりと話しながら下駄箱で靴を履き替えていると、たまたま通りがかった担任の東(あずま)先生と目が合った。 「おはよー東ー」 「こらこら。『おはようございます東先生』だよ、猿田さん。3人ともおはよう」 友達のように話しかけるさるるんに、東先生は穏やかな口調で諭す。 恐らく自分たちの親より年上だろう東先生は、いつもニコニコした温厚な性格のおじさんで、私やさるるんを始めとした曲者揃いのうちのクラスを上手にまとめているベテラン教師だ。 東先生は私に目を留めると、「日野さん、ちょっと」と小さく手招きをしてふたりから少し離れた。      
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