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留年はしたくない、けど進路のことは考えたくない……なんて矛盾だ。
教室に向かおうと中庭沿いの渡り廊下を歩いていると、そこでは朝から2年生の男子たちがドッヂボールをしているのが見えた。
朝から袖をまくり汗をかき、大きな声ではしゃいでいる。
元気だなぁ、なんて思って見ていると方向のズレたボールがこちらへとんできた。
「すみませーん、投げてくださーい!」
ちょうど足元に転がってきたボールを、私は気合いを入れて投げ返した。
ところがそのボールはめがけたところとはほど遠く逸れ、近くを歩いていた人の頭に思い切りぶつかってしまった。
「うわっ!やば!すみませーん、大丈夫です、かー……」
声をかけながら慌てて駆け寄るが、近づくにつれそれが誰か判明し血の気がサーッと引くのを感じた。
黒い髪、高い身長、グレーのジャケット……そう、ボールは通りすがりの櫻井先生の後頭部に直撃したらしい。
それには先ほどまで騒いでいた2年生たちも一瞬で静まり返る。
「誰だ……人の頭にボールぶつけたのは……」
少しよろけて頭をおさえながらたずねる彼に、2年生たちは冷や汗をかきながら一斉に私を指差した。
その指先に従い私を見る、その目は鋭くこれまで見た中で一番の怒りをみせていて……。
「日野お前かー!!!」
「ご、ごめんなさいー!!」
朝のチャイムと同時に、彼の怒号が響き渡った。
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