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その日の放課後。
瞳とさるるんにカフェでの勉強会に誘われたけれど、私はそれを断って資料室へと向かった。
そこで櫻井先生から命じられた居残りというのは、授業で使う資料のホチキス留めだった。
長机に並べられたプリントを1ページ目から5ページ目まで順番に並べてとじるだけ。
簡単な作業だけれど、3年生全員分となるとかなりの量だ。
「すごい量。先生たちこんなのいつもやってるの?」
「あぁ。成田に手伝わせてるけど、あいつに頼むと酒おごらされるから面倒なんだよ」
「あはは、成田先生お酒好きなんだ」
短い会話のあと、無言の室内には紙をめくる音とホチキスの音だけが続いた。
……やばい、ふたりきりで無言だとちょっと緊張する。
ちらりと見た先では櫻井先生も黙々とプリントをまとめている。
黙ってる姿もかっこいいな。
きれいに整った眉に、きめ細かい色白の頬。20代後半の男の人ってこんなに肌きれいなの?
「手、止まってるぞ」
「あっ!」
ついほれぼれと見つめていると、指摘されてしまった。視線に気づかれていたらしい。
「そういえば先生、頭大丈夫?」
「あ?喧嘩売ってるのか?」
「えっ、あっ!違う違う!ぶつかったところ大丈夫かなってこと!」
日本語難しい!
慌てて訂正する私に、櫻井先生はそういうことかというふうに後頭部をさすった。
「腫れてもないし大丈夫だ。けど俺にぶつかるくらいで済んでよかったな、窓でも割れてたら停学だぞ」
「たしかに……」
それは大事になっていたかも。
停学に弁償代に、と考えると恐ろしさに心臓がキュッとして、もう中庭でボールは投げないと心に誓った。
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