桜色の涙

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4月頭のよく晴れた日の午後。 校舎3階の一番角にある3年1組の教室で、後列窓際という絶好の席に座った私は頬杖をつきながら窓の外を見ていた。 白い外壁の校舎に囲まれた校庭。その先にある多摩川の土手沿いにはずらりと桜の木々が並び、春の訪れを感じさせる。 青い空に、ピンク色の桜並木。キラキラと光る川の水面。どれをとってもきれいだ。 その景色に重ねるように自分の手を窓に向けると、 指先を彩る桜色のネイルが景色になじんだ。 昨日自分で塗った桜色のネイルも、春らしくてかわいい。我ながら良い出来栄えだ、とほれぼれしてしまう。 「……いい爪の色だな」 「でしょ?昨日の夜遅くまで頑張ったんだ。この絶妙な色味がかわいいんだけどムラになりやすいから大変で……」 不意に頭上から降ってきた声に、いたって普通に答えながら、窓から教室内へ視線を向けた。 そこで私はようやく気づく。今が水曜日の5限目、数学の授業中であるということを。 「そうか、そんなにいいか。俺の授業より」 怒りを含んだその声に、恐る恐る顔を上げる。 するとそこには数学教師である黒髪の彼が、にこりと微笑み私を見下ろしていた。 その笑顔は優しさにあふれて……いるわけもなく。 むしろ怒りを抑えるように口元をひきつらせている。 やばい、やっちゃった。 「あの、えーっと……」 「日野あかり。放課後指導室に来るように」 すみません、ごめんなさい、という言葉すらも聞くことなく、彼は低い声で言ってスタスタと教壇へ歩いていってしまう。 怒る彼にうなだれる私、そんな光景を見てクラスの皆はクスクスと笑った。   
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