8人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
「気持ちは落ち着いた?」
それは、先ほど保健室で泣いていたことに対してだろう。
「……うん」
「どうして泣いてたか、聞いても大丈夫?」
優しい問いかけに、話しても大丈夫か一瞬迷うけれど、成田先生ならと信じて話した。
櫻井先生にずっと片想いをしていたこと、衝動的に気持ちを伝えてしまったこと。
拒否され、『つらい』とまで言われてしまったこと。
成田先生は口を挟むことなく、最後まで話をじっくりと聞いてくれた。
「そっか、そんなことがあったんだ」
「先生のこと恋愛対象として思ってるなんて、間違ってるかもしれないけど……それでも好きで、どうしようもなくて」
「うん、わかってる。大人のアドバイスとしては正しくないかもしれないけど、人が人を好きになるのに、立場とか年齢とか関係ないって俺は思うよ」
普通の大人や先生に相談したらきっと、『ただの大人への憧れ』と否定されてしまうかもしれない。
だけど成田先生は真剣さを汲み取って、向き合い肯定してくれる。
とても優しい人だと思った。
「けど、やっぱりか。一至の中で葉月ちゃんの存在は、まだまだ大きいんだなぁ」
「葉月ちゃん……って、その元カノですか?」
「うん」
成田先生が口にした『葉月』と言う名前。
どこか聞き覚えがあると思ったら、あの指輪の内側に刻印されていた名前だ。
やはりあの指輪の持ち主が櫻井先生の想い人だったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!