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「……亡くなったんだ。20歳になって、ほどなくして」
「え……」
「事故だった。一至と葉月ちゃんがふたりで歩道橋を歩いてたところに、酔っ払いがぶつかって……。
一至の目の前で彼女は落ちて、当たりどころが悪かった」
亡くなった……?
思わぬ話に、なんて言葉を返していいかわからずにいると成田先生は話を続けた。
「当時ふたりは大学卒業して落ち着いたら結婚しようって約束してた。
そんな相手が急に亡くなって、一至は憔悴しきってた」
「櫻井先生、が……」
「学校も休み続けて心配になるくらい痩せて、このまま放って置いたら後追いしかねないと思って俺も泊まり込みでそばにいたくらい。
おかげでふたり揃って留年したけど」
それも今となっては笑い話のようにあはは、と笑って言う。
いつも冷静で、どこか割り切っているような彼が、そこまで憔悴し落ち込んでいた。
結婚の約束までしていた相手を亡くしたんだ、当然だろう。
当時の彼の苦しみを思うと、自分の胸もひどく締め付けられた。
「でも時間の流れが心の傷を癒すっていうのは本当で、一至も少しずつ立ち直っていったんだよ」
「成田先生のおかげ、だね」
「ううん、一至本人の強さだよ。
進まないといけない、日常に戻らないといけない、そう必死に言い聞かせながらなんとか戻っていったから」
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