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「けどそれ以来、一至が誰かと付き合ったり、誰かを好きになったりって話は聞いたことがない。
きっとまだ、その心には葉月ちゃんがいるんだろうね」
だから、私を見てるとつらいんだ。
私が、葉月さんとどこか似てるから。
その話を聞いて、思ってしまった。
今まで先生が私に優しくしてくれていたのは、葉月さんと似ていたからじゃないかって。
頭を撫でる優しい手も、励ましてくれる言葉も、全ては葉月さんに与えたかったもので。
私宛てじゃなかったんじゃないかって。
だとしたら、恥ずかしい勘違いだ。
彼の優しさを自分のためのものだと思って、浮かれて引き返せないくらい好きになるなんて。
なにも知らなかった自分が、情けなくて恥ずかしい。
話をひと区切り終えたところで、成田先生のスマホがヴー、と音を立てて震えた。
「あ、学校からだ。早く戻ってこいってことかな。じゃあ戻ろうか」
「……うん」
その連絡に、私と先生は話を切り上げ学校へと戻った。
だけどその間も頭の中には、櫻井先生の悲しい表情や言葉が思い出されて、何度も何度も胸が痛くなった。
突然失った彼女のことを、櫻井先生は今も想っている。
亡くなった人に、生きている人は勝てない。
それなら、私はーー。
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