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翌日は、終業式だった。
終業式とホームルームを終え、午後になる頃には皆部活へ向かったり帰路についたりと教室をあとにしていた。
瞳たちにカラオケでもと誘われたけれど、『東先生への進路の相談』を口実に断った私は、ひとり数学準備室と書かれた部屋の前にいた。
本校舎から渡り廊下でつながれた別棟の端には、国語や英語など科目別の準備室がいくつかある。
それは先生たちが授業の準備をしたり、個別に業務をするときに使う小さな部屋で、職員室にいないときにはここにいることが多い。
櫻井先生も同様で、職員室にいなかったことからここにいるのではないかと思いやってきた。
昨日からひと晩考えて、自分がどうするべきか心を決めた。
息をひとつ吸い込んで、私は準備室のドアをトントンとノックした。
「はい」
中から返ってきた先生の声に、ゆっくりとドアを開ける。
「失礼します」
開けたドアの先には、資料が積まれた机やテキストが並ぶ本棚など雑多な室内の中、こちらを振り向く櫻井先生の姿がある。
窓からの太陽の光が逆光となり、一瞬その表情がよく見えない。
「……日野か。お前部活もないんだから、早く帰れ」
けれどその声から、拒絶されているのは感じられた。
「昨日、成田先生から葉月さんのこと聞いたよ」
私の言葉に、彼の眉がピクッと動く。
表情を隠すように先生はこちらへ背中を向けた。
「……ならもう関わるな。
お前のこの前の言葉も聞かなかったことにする。だから忘れろ」
この前の言葉、というのは『好き』と伝えたことだろう。
堪えきれないくらいの気持ちまで、なかったことにされてしまう。
それほどまでに、彼女の存在は大きい。
亡くなった彼女に、生きている私は勝てない。
ううん、勝ち負け以前に気持ちに向き合ってすらもらえない。
それなら、いっそ。
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