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「お前もう今年受験生だぞ。もっとちゃんとしろ」
「でもさぁ、天気もいいし桜もきれいだし、ついついよそ見したくなっちゃったんだもん。ね、爪かわいくない?」
両手を揃えてネイルを見せる私に、その眉間にはより深くシワが寄る。
「そういうことじゃない。いくら校則がゆるいとはいえ、制服は正しく着ろ。髪色ももう少し暗くしろ。爪も派手なネイルは禁止だ」
「えー!だって高校生最後だよ?高校生活、かわいい格好して過ごしたいじゃん!」
「そんなの高校出てからいくらでもできるだろ。今は高校生らしい格好をするように。てことではい、反省文」
言いながら櫻井先生が私の前に差し出したのは、反省文の記入用紙。
悲しいことにこれを見るのはもう何度目かで、書き慣れてしまっている私は、先生に書き方をたずねることもなくペンをとり書き始めた。
反省文って、なぜ叱られたのか、どう改善していくのかを書くのがいつも面倒なんだよね。
……だけど。
一瞬だけ手を止めてちらりと見上げると、机の横に立ち窓の方を見ながら私が書き終えるのを待つ櫻井先生の姿がある。
ふたりきりの、この空間がうれしい。
「ん?なんだよ」
不意にこちらを見た彼と目が合い、私はあわてて視線を手元の用紙に戻した。
見てたの、バレた。
気づいてほしくないような、でもまったく気づかれないのもじれったいような。
そんな曖昧な気持ちを抱えて文字を書いていると、今度は突然彼の手が髪をくいっと軽く引っ張った。
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