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「先生、ごめんなさい……私、」
「……ふざけるなよ」
言い繕おうとするのがわかったように、先生は低い声でつぶやく。
そして私の顔の横を拳でガン!!と殴りつけた。
「どれだけ必死にあいつへの想いを断ち切ろうとしてきたかも知らないで、気安く『代わりでもいい』なんて言うんじゃねぇよ。
誰かを代わりにして片付くなら、こんなに苦しんでないんだよ……そんな簡単な話じゃねぇんだよ!!」
叫ぶようなその声から、怒り、苛立ち、悲しみ。様々な気持ちがぐちゃぐちゃに入り混じっているのを感じた。
本当はもっとぶつけたい言葉があっただろう。
けれどそれ以上の言葉を飲み込み、櫻井先生は体を起こすと部屋をあとにした。
櫻井先生が好き。だから、誰かの代わりだっていい。
そう思った、はずなのに。
体を起こし自分の手を見ると、血の気の引いた手のひらはかすかに震えていた。
代わりでもいい、怖くなんてない、大丈夫。
繕うように言い聞かせていた言葉たちも、先生が『葉月』と口にするたび剥がれていくのを感じた。
……悲しい。
いやだ。代わりなんていやだよ。
私だけをみてほしい。
『見てるとつらい』なんて言わないで。
私の気持ちを見てほしいよ。
好きだよ、先生。
想っては泣いてしまう。そんなことの繰り返しだ。
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