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「ごめんね、一至じゃなくて」
「えっ?そんな……」
冗談めかして言う成田先生の言葉に否定しかけて、けれど心の内を見透かされたような気がした。
……成田先生が言う通り。
本当は、櫻井先生じゃないかって期待した。
いつだってこういうときに駆けつけてくれるのは、彼だったから。
だけどもう、彼はきてくれない。
私は、先生のことを傷つけることしかできないから。
誰かに見つけてもらえた安心感や、櫻井先生の姿を期待した自分への恥ずかしさ。
彼はもうこないという悲しさなど、いろんな気持ちが一気に押し寄せ、涙となってあふれ出した。
「って、え!?日野ちゃん!?どうしたの!?」
「先生、私……私っ……」
「わぁ!泣かないでー!」
突然泣き出す私に、成田先生は慌ててポケットからハンカチを出して私に差し出した。
「成田先生……ハンカチとか、持ってるんだ」
「持ってるよ!俺どんなイメージなのかな!」
ハンカチを受け取り涙を拭う私に、成田先生は察したように言う。
「あれから、一至となにかあった?」
「……なにかあったっていうか、私が悪いの。
必死になりすぎて、『葉月さんの代わりでいい』って言って、先生のこと怒らせた」
「あー……確かに、それは違うだろうね」
それを聞いて成田先生は納得したように頷く。
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