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「それにしてもどうなってるんだ、この髪」
不思議そうに言いながら、編み込みしている私の右毛束を手に取りまじまじと見る。
突然触れられたことに驚き戸惑い、そしてそれ以上に恥ずかしさで頬が熱くなる。
「これは、その、ギュッて編んでシュシュッって結んで……」
「は?」
意味がわからない、と言いたげな彼に私は反省文を書き殴ると「終わった!」と勢いよく席を立った。
「終わったから帰る!」
「おう、次回はちゃんと授業聞けよ。……あと、口あけて」
「へ?」
くち?
言われるがまま口を小さく開けると、櫻井先生はなにかをぽいっと放り込んできた。
舌にあたる固く小さな楕円形から飴だ、と察したけれど、次の瞬間感じたのは強烈なすっぱさだった。
「って、すっぱ!!!」
「反省文書いたご褒美に梅干し味の飴だ」
「むしろお仕置き!!」
こういうときって普通、甘いキャンディでキュンとするものじゃないの……!?
涙目で彼を見ると、いつも不機嫌そうなその顔はおかしそうに「ははっ」と笑う。
くそ、なんてかわいい笑顔……!
「もう、いじわる!さよなら!」
「はいはい、気をつけて帰れよ」
大きな声で言って、私は部屋を飛び出した。
絶対私の反応見て楽しんでる。ああもう、口の中がすっぱい。甘いもの食べたい。
そんなことを考え廊下を歩いて行く。けれど胸の中は、先ほどの彼の笑顔でいっぱいだ。
「あぁもう……好き!」
抑えきれない気持ちを、ひとり声に出して発散した。
櫻井先生は学校の先生で私は生徒で、10歳も離れていて、大人と子供で、なにもかもが違う。
だけど……私にとって、彼はひとりの男性だ。
叶わないとわかっていても、片想いをし続けている。
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