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「一至は誰かを葉月ちゃんの代わりにしたいんじゃないよ。なのに重ねたり思い出したりしちゃうから、だから苦しんでる」
代わりにしたいんじゃ、ない?
そっか、私思い違いをしていた。
櫻井先生は葉月さんのことを忘れられないから、私に重ねてるって思ってた。
だけど違う。
重なってしまう、んだ。
過去に引っ張られてはいけない、前に進まなきゃいけない。
そう思っても思い出されてしまう。面影がよぎってしまう。
「じゃあ私、櫻井先生の苦労を無碍にしちゃったんだ……」
前に進みたいともがく人に『代わりでもいい』なんて言ったら、怒るのは当たり前なんだ。
成田先生はそんな私を責めたり叱ったりもせず、ポンポンと頭を撫でる。
「さっき日野ちゃんとはぐれたって騒ぎになったとき、一至は一番に探しに行こうとしたんだよ」
「え?そうなの?」
「うん。でも結構焦ってたから、そのまま行ったら一至まで迷子になりかねないって俺が来たってわけ」
櫻井先生が……?
成田先生が来たのは、彼が私に呆れたからだと思っていた。
だけど本当は、一番に探しに行こうとしてくれていたんだ。
「この前日野ちゃんが階段から落ちたときも、駆けつけてから何度も日野ちゃんの名前呼んで、迷うことなく体抱き上げて……。
少なからずきみに惹かれてるところがあるんだろうなって、思う」
少しでも、私自身に目を向けてくれている?
その言葉が嬉しくて、でも信じられなくて、心は激しく揺れる。
だけどそれに対して成田先生は、はっきりと言い切った。
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