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「櫻井先生、好きだよ」
私の声ひとつが、その場に響いた。
「無理だって、言っただろ」
「それは生徒だから?それとも葉月さんのことがあるから?」
問いかけに先生は黙って目を逸らす。
はっきりと断言しないあたりから、『生徒だから』ということだけが理由じゃないとわかる。
「先生の中で葉月さんが大きな存在だってわかってる。
簡単に消せない、忘れることもできない人だってわかってるよ」
彼女は、別れを惜しむことすらできなかった人。
嫌いになったわけじゃない。むしろ好きなのに、二度と会えなくなった人。
そんな中で彼女に似た私だからこそ、気にかけてくれたんだろう。
だけど。
「だけど私は信じてる。
私にくれた言葉は、先生が私にくれた気持ちだって信じてる」
櫻井先生がくれた言葉たち。
『親がどれだけ否定してきても、俺がその分肯定してやる』
『日野の人生は、日野のものだよ』
それらは他の誰でもない、"私"に向けられたものだって信じてるから。
「私は葉月さんを忘れてほしいなんて思ってない。彼女を好きで居続けていたって構わない。
ただ……ほんのたまにでいいから、私のことも見てくれたらうれしい」
彼女と過ごした日々を忘れてほしい、なんて望んでいない。
恋人じゃなくても、好きとか恋愛対象とかじゃなくても、まずひとりの人間として見て欲しいよ。
私の気持ちがちゃんとあることを、知ってほしい。
この恋が叶うまでは、きっと果てしなくて長い道のり。
叶わないのかもしれない。
つらいことばかりかもしれない。
それでもいい。
無難じゃない、傷つく恋だっていい。
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