4

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

4

 すると“僕”は得意げに答える。 「だって僕はキミで、キミは僕だからね」 「やっぱりドッペルゲンガーなんじゃないか!」 「さあどうだろうね」    “僕”はフッと笑った。 「この人口の多さだぜ? 一人くらい、全く同じ人間が居てもいいんじゃない?」 「だからそれをドッペルゲンガーって言うんだって!」  なかなかドッペルゲンガーであるということを認めない“僕”。全く、本当になんなんだ。  でも。 「なんかキミ、面白いな」  僕はそう言った。同じ姿かたち、中身は真反対……とまでは行かないけれど、変だし。僕とは違う。 「キミも、十分面白いよ」  “僕”が笑った。 「じゃあそろそろ、僕は帰るよ。今日は下見に来ただけだし」 「じゃあ僕も帰ろうかな」 「ってことで、それ、返して?」  僕は“僕”が座っているチェアを指差す。それは僕が持ってきた物だったのに、桜の下で開いた瞬間、そこに“僕”が座っていて。……要するに、横取りされたものだったのである。 「ああ、ごめんよ」  “僕”がイスから立ち上がった。僕は丁寧にそれを畳んで、持っていた収納袋に入れる。 「じゃ、バイバイ」  僕は“僕”に向かって手を振る。すると、“僕”も鏡写しのように手を振り返してきた。 「うん、またね」 「いや、またねじゃないから」 「え、なんで!?」 「『また』会っちゃったら、僕、死ぬから」 「じゃあ今生の別れか」 「なんか嫌だな、その言い方」  僕は思わず笑う。“僕”も笑っていた。  じゃあ。  声が重なる。 「「バイバイ」」  ふわぁっと風が吹いた。桜の花びらが数枚、僕の目の前を通り過ぎていく。思わず目を瞑り、再び目を開けると――そこには。 「あれ」  “僕”の姿は、跡形もなく消えていた。  透けて触れられない体、飄々とした正確。  桜の木の陰から現れ、花びらとともに去っていったあいつは――。 「桜の木の精、だったりして」  一人でそんなことを思いながら、僕は家路につく。もうすぐで満開の頃を迎えそうな桜たちが、僕の背中を見送っていた。   (了)
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!