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「……えっ」  僕はもう一度、“僕”の体に手を伸ばす。肩に触れようとする。もちろん触れない。頭を撫でようとする。もちろん撫でられない。  加えて、“僕”の体が少し半透明のように見えてきた。 「えぇぇぇ! 透けてるんですけどぉぉ!?」 「ふっ、驚いたか、桜斗。これが僕の力だ」 「いや、意味わかんないから。それに僕の名前を、僕の顔と声で呼ぶのやめてくれない?」 「じゃあ、なんと呼べばいいのさ、桜斗」 「だからやめてってば」  話の通じないやつだ。僕はため息をつく。そして諦めてスマホを取り出す。 「検索かけてやる」 「なんて?」 「目の前にウザったいドッペルゲンガーが居ます。どう対処すればいいですか」 「絶対何も出てこないと予想」  僕は検索結果の一番上に出てきた記事をタップした。 「『虫の侵入予防、害虫駆除に! なんでも聞く殺虫スプレー』」 「絶対『対処』のワードに反応しただろ」 「……これ買おうかな」 「僕は害虫じゃないよぉ」 「じゃあやっぱりドッペルゲンガーだろ」 「さあ」 「そうやってはぐらかすところが、怪しいんだって」  今度は、単に「ドッペルゲンガー」と検索してみる。すると。どうやらドッペルゲンガーは霊魂が肉体から分離したものであるらしい、ということが分かった。それに、ドッペルゲンガーと二回遭遇すると、その人は死ぬと言われているということも。   「なるほど。だから僕はキミに触れることができないのかな」 「そういうことかもね」  “僕”が頷く。その瞬間、僕は目の前の“僕”の胸ぐらを掴んでいた。……いや、掴むそぶりをした、だけで終わったけど。 「おい! 頷いたってことは、お前やっぱりドッペルゲンガーじゃないか!」 「さあね。それに僕は肯定したわけじゃないさ。『かもね』って言ったし!」 「そういう問題じゃないだろ。ってことは……僕はもう一度“僕”に会ってしまうと、死ぬってわけか」 「そうかもね」  肩を揺らす“僕”。一体何が面白いんだか。  僕が更になにか言ってやろうと口を開いたとき、“僕”はやんわりと言った。 「それよりさ、今は桜を楽しもうよ」  僕はその優しい声に、思わず黙った。揃って桜の木を見上げる僕ら。 「うーん……まだつぼみがあるね。来週末には満開かな」 「じゃあちょうど」  家族で花見をする頃には、爛漫と咲き誇る桜が見られるだろうか。 「雨、降らないと良いね」 「うん」 「だって家族でお花見だもんね」 「うん……って!」  僕は再び“僕”に向かって叫んだ。 「キミが何故それを知ってるんだよ!」
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