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「しまったな。さっそく、はしゃぎ過ぎてしまいました」
しゅんとした声に目が合い、深く頭を下げられる。
「不快な思いをさせて申し訳ない。適当な言葉を述べたつもりは無いが、貴女からしたら会ったばかりの男に美しいだの言われ、嫌な気持ちになるのは当たり前か。ちなみに会ったばかりですよね?」
「え、先程お会いしたばかりですが?」
「はは、そうですよね。考えが至らず本当にすまなかった!」
誠意を感じ、私も頭を下げ返す。
「私こそ不躾な態度を取ってしまい、すいません。その、コンプレックスでして」
現役時代のファンと言ってもらえるのは有り難い一方、あの頃と比べられるのが苦痛だ。
アーティスティックスイミングをやっていたからこそ仕事へ繋がると承知していても、過去の栄光へ向けられる好奇心を受け流せなくて。悪意が無ければ無い分、消化しづらい。
西園寺氏はそれ以上、踏み込んでこなかった。
「それではフォームの確認をして頂けますか?」
彼は場の気まずさをシャワーでさっぱり洗い流すと、レッスンの開始を促す。
「は、はい。少し泳いで貰っても?」
切り替えの早さに救われる。
「分かりました。お願いします」
滑らかに泳ぎ始める姿を花梨ちゃんと見守った。
「わぁ! キレイなフォームーーって、先輩!」
「え?」
「ほら、唇。血が出ちゃいますよ!」
噛み締めていた口元を指摘される。
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