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彼は運動神経がかなり良いらしい。言わんとする旨をすぐさま会得し、水中で動作を確認中の私へ微笑む余裕まである。
(器用な人だなぁ)
西園寺氏の笑顔を見詰めるうち、つられてしまった。泳ぐと表情筋が柔らかくなるので、もしかして上手く笑えたかもしれない。
「ーーっ! がはっ!」
ところが、大量の泡を吹き出す西園寺氏。苦しそうに悶え、酸素を求めて上がっていく。
「西園寺さん! 大丈夫ですかぁ〜?」
すぐさま花梨ちゃんが飛び込み、むせる背中を撫でてコースの脇へ移動させる。西園寺氏の顔は真っ赤で呼吸も乱れ、まるで溺れてしまったみたい。
「ご、ごめん、大丈夫だよ。驚いてしまって……」
「驚くって、何にです?」
二人は私を窺う。
私としては微笑み返したのだが、こんなリアクションを取られるなんて複雑だ。というか、どうして私は笑ったんだろう? 頬に手を添えて首をひねった。
「あ〜そのポーズはあざとい! 可愛いです! ねっ? 西園寺さんーー西園寺さん!?」
すると西園寺氏が突如潜り、足元まで潜水してくる。それからまた水中へ私を引き込む。
足首を掴まれ、先程より近い距離で彼を見ればーー青い瞳が三日月型に細められる。
バランスを崩されたものの、ふわりふわり浮いた状態。言葉になれない泡が生まれては消えていく。
(あれ、この感じ、何処かで……)
何かが過ぎりかけた時、花梨ちゃんの腕が勢いよく割り込む。
「先輩も西園寺さんも水の中でにらめっこなんて止めて下さい! やるなら外でして下さいよ〜奈美先輩がまたあんな風になっちゃったら、私、私」
心細い発見が聞こえ、ハッと我に返った。
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