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そのままサイドチェアへ座らされ、カップを持たされた。深呼吸を意識的にしても肺が膨らまない。
「あぁ、あったかい」
花梨ちゃんの横顔に血の気が戻り、ひとまずホッとする。もしも花梨ちゃんがあの過去に支配されてしまえば、私一人じゃ対応しきれなかっただろう。
「さぁ、結城さんもどうぞ」
「……頂きます」
西園寺氏が座らないのが気になるものの、湯気が上がる縁へ口を寄せる。
「美味しい、です」
「それは良かった! お気に入りの茶葉なんだ」
茶葉もさることながらミルクの分量も私好みで驚いてしまう。二口、三口と飲み進めるうち冷静になっていく。
「西園寺さん、本当にごめんなさい! 私、奈美先輩が溺れたらどうしようってテンパっちゃって」
花梨ちゃんが起立して詫びる。不意打ちにしろスイミングインストラクターが溺れるなど本末転倒だが、西園寺氏はそんな根本を言及しない。
「僕こそ、憧れの女性に会えて浮かれ過ぎたんだ。少年みたいな悪戯をして自分が恥ずかしいよ」
視線をこちらへ向けられ、ごくん、喉を鳴らしてしまう。全く少年らしくない角度のある微笑みを浴びたからだ。
「挽回のチャンスが欲しいと話した続きなんだが、明日パーティーを開く予定でね。お二人を招待してもいいかい?」
「パーティー?」
「停泊の影響で足止めされているだろう? 気晴らしみたいなもので身内と関係者のみのささやかな宴だ。どうかな?」
などと補足されても相手はかの西園寺グループ。ささやかと言えど、私達はどう考えても招かざるゲストだろう。
「せっかくのお誘いですけどーー」
「行ってみたいです!!」
すっかり調子が回復した花梨ちゃんに辞退の意思を潰されてしまった。
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