初恋

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■  花梨ちゃんと揃って病院へ訪れると、修司は片眉を上げた。病院嫌いの妹が来る理由を直球で投げ掛ける。 「用件は何だ? 怪我か、病気か?」 「……デリカシーがない兄貴ね。そんなんだから先輩に捨てられるのよ」 「違う、俺から振ったんだ。そうだろう?」 「そうね、デリカシーが足らないという意見に同意する」  軽口を叩く修司だが、花梨ちゃんの加減をそれとなく探っていた。  診察室には通さず、仮眠を取る為あれこれ手を加えた部屋へ案内される。漫画やゲームソフトが充実した内装に私達は顔を見合わす。 「呆れた、これじゃ兄貴の部屋じゃん。どうりで実家に寄り付かないと思った」 「うるせぇ、このくらい構わないじゃねぇか。それより何か飲むか? お子様な花梨はコーヒー牛乳でいいな。奈美は?」  小型の冷蔵庫を開ければ先日渡したタッパーがそのまま入っている。漫画もゲームソフトも揃えてあるだけで実際は楽しむ間もないのだろう。 「あのさ、奈美先輩はコーヒー飲めないんだってば! いい加減覚えたら? 紅茶はあるの? ミルクティーとか?」 「はぁ? ミルクティーだと? そんな小洒落たもの、あるかよ。よし、村田の爺さんが寄越した昆布茶にするか」  靴を脱げと顎で促され、褪せた畳の上に腰を下ろす。菓子受けは住民の手作りだろうか? 年配の方が好む和菓子がこんもり盛られている。 「昆布茶……西園寺さんは美味しいミルクティーをご馳走してくれたのになぁ」 「確かにあのお茶、美味しかったね」  同意しつつ、お茶の支度をする背中を眺めた。 「ーー西園寺?」  シュコシュコ、ポットを押していた修司の動きが止まる。
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