嵐の前触れ

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 海辺の事務所から丘にある病院までは車で約十五分。  道程の途中、嵐に備える住民等とすれ違う。ラジオの情報によれば直撃は免れず、大きな被害も予想される。  私はアーティスティックスイミング選手として活動する間は島から離れ、母が体調を崩したのが切っ掛けで戻ってきた。  短い少女時代を過ごした土地に愛着があるかと問われれば、それほどと答えるのが素直な気持ちだ。  病院は一つ、コンビニも数えるくらいしかない島が暮らしやすいとは言い難い。観光資源である海は確かに美しく魅力的であるけれど、利便性と差し引きゼロとはならず、なんならマイナスに傾くかもしれなくて。  どんより曇る海を横目にアクセルを踏む。ハンドルを握る指にギュッと力が入った。  病院に着くとこちらでも嵐に向けて支度を整えている。私の車を見付け、白衣がさっそく近寄ってきた。 「よぉ奈美。見舞いか?」 「着替えを持ってきたんだけど。あと、これ。修司も泊まりになるんでしょ?」  助手席に乗せたボストンバッグと常備食の入ったクーラーボックスを降ろす。 「いつも悪いな、助かるよ。奈美の手料理は美味くて栄養バランスもいい。インストラクター辞めて店を出す気ない? 毎日通う自信があるぞ」 「お世辞を言っても無駄よ。きんぴらに入ってるニンジンは抜いてあげない」 「あー、そりゃ残念」  荷物を両方担ぎ、院内へ案内してくれる。その横顔を見上げ、蓄積された疲労を察した。
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