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「それにしても酷い顔、花梨ちゃんが心配するわよ?」
静かな廊下に靴音が響く。嵐が来るのだ、見舞いに来る者など他にいない。というより、回復の見込みがあるならば本土の病院で養生する。
「ーー奈美は?」
「え?」
「奈美は心配してくれねぇの?」
修司が私を見ないで聞いてくる。
足を止め、白い壁に最適解を探してみるも記されていなくて。
「私達、そういうのじゃないでしょ。修司からもう付き合えないって言った」
かぶりを振る。すると修司は襟足を掻き、そうだな、そうだったなと話題を切った。
「あ、そういえばーーおばさんに花が届いていたな」
「え、花? 誰から?」
病室に入った途端、見事な花束に出迎えられる。私は思わず駆け寄って抱えた。鼻先を埋もれさせ香りを吸い込む。
「素敵! どれも花が好きな花ね、一体どなたがくれたのかしら?」
意思疎通が難しくなったのもあり、母を見舞う人はめっきり減ってしまう。
娘の私でさえ病状から目を背けたくなるのだから、友人等が島一番の元気なキャラクター崩壊を受け止められないのは仕方がないか。
そう諦めていた最中、このサプライズは嬉しい。名刺やメッセージカードが添えられていないか確認。見当たらず修司へ視線を流す。
「看護師に聞いたんだが受付へ届いたって。本土の花屋で手配されたみたいだな」
「ーーそうなの」
「で、でもさ! 花だけ先に届けて、天候が良くなったら見舞うつもりなのかも?」
明らかに声のトーンが沈み、修司に気を使わせてしまった。
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