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「うん、そうね……そうだといいよね? お母さん」
花束を抱えたまま、ベッドの脇へ移動。母は先日見舞った際と同じ格好で横たわっている。
「修司、お母さんを家へ戻せない? お父さんと過ごした場所の方が幸せじゃないかな?」
「それがどういう意味か、分かって言ってるのか? 自宅で看護するとしてインストラクターの仕事はどうする? これからハイシーズンなんだろうが? お前目当ての観光客が来るって島の皆で期待しているんだぞ」
修司の立ち位置は医者と幼馴染の間を行ったり来たり、私に決断させまいと悩ます。島を愛する母は私がインストラクターとして役立つのを喜ぶに違いない。
その時、雨が降り始めた。雨脚は一気に強くなり窓ガラスを叩く。
それを呆然と眺めるうち、涙が溢れてくる。
「泣くなよ、お前にそんな風に泣かれたら俺は……俺は」
修司が隣に立ち、白衣に私を押し付ける。
修司の白衣からはコーヒーの香りがした。
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