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「さすがは元アスリート! 集客率がエグい! よっ! 島のマーメイド〜!」
花梨ちゃんがニヤニヤ笑い、肘でこちらをつつく。
「こらこら茶化さない」
「だってぇ、あの西園寺晴臣のご指名なんですし?」
「この天候じゃ、本土のインストラクターを招けなかった。スイミング指導だなんて御曹司様の戯れでしょうに」
「んもぅ、そんな言い方しないで下さい〜! 先輩の言う通りなんでしょうけど、私は夢を見たいんです」
「夢、ね」
花梨ちゃんをたしなめ、書類へ視線を落とす。西園寺晴臣の簡単なプロフィール、経歴へ目を通すと端正な顔立ちも確認。これは面食いの花梨ちゃんがはしゃぐのも無理ないか。
「この若さで西園寺コーポレーションの副社長だなんて凄いね」
「しかも独身なんです〜。世界中のセレブが彼のお嫁さんになりたいって言ってるみたいで。あぁ、西園寺の奥様だなんて想像しただけでうっとりしちゃう」
「ほら、うっとりしていないで現実に帰ってきて。約束まで時間がないのよ」
「ちぇっ、本当に奈美先輩ってリアリストですね」
恋愛に関しては、言外に込められていると気づくも無視を決め込む。
私は今年で二十六歳、悪いが惚れた晴れたで浮足立つ恋愛など卒業したんだ。ううん、もとから恋愛に対して積極的じゃなく、結婚願望もなければ恋人が欲しいとも思えない。
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