嵐の前触れ

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 支度を整える視界の隅に現役時代の姿がちらつく。それはマーメイドダイバーズの宣伝ポスターで、父がまだ健在だった頃の私は今より上手に笑えている気がする。  母の件もあるけれど最近は感情が滞り、塞ぎ込む。これじゃあ駄目だって分かっているものの強がってしまう。  鼻歌交じりにメイク直しをする花梨ちゃんと自身を比べ、彼女みたく可愛い性格であったならと思う。良くも悪くも素直で、リボンとレースが良く似合う花梨ちゃんが羨ましい。 「ん? どうかしました?」 「何でもない。花梨ちゃんが可愛いなぁって見ていただけ」 「え、え、ありがとうございます! 奈美先輩に褒めて貰えるの感激! ふふ、西園寺さん、私に一目惚れしちゃうかも?」 「もう調子に乗らない! さぁ、迎えの車が来たみたい。行くわよ」 「あーん、置いて行かないで下さい〜」  ため息をつく私に慌てて続く花梨ちゃん。  小動物みたいで目が離せないのが末っ子気質と言われ、長男気質であろう西園寺が花梨ちゃんを見初める可能性もなくはないか。 (まぁ、私は長女だけど、一目惚れなんて絶対しないだろうな)  事務所を出ると、ちょうどリムジンが到着する所だった。
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