(3)

1/1
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

(3)

 魔物の毒の浄化には時間がかかる。それは、この世界に住む者なら誰でも知っている常識だ。だからこそジャニスは、女と王太子を消滅させてからすぐに、王都から離れた公爵家の領内に転移した。ひとの少ない森の中であれば、浄化の副作用で何かが起きたとしても迷惑をかけにくい。それに木を隠すなら森の中と言うではないか。  王都周辺の情報は、渡り鳥たちが嬉々として提供してくれる。彼らの話を聞いていれば、ひとりぼっちの寂しさもまぎれるというもの。 (木に姿を変えたおかげで、動物の言葉がわかるようになったのは僥倖でした)  染められた布がゆっくりと色あせていくように、ジャニスが吸収した魔物の毒も少しずつ清められていく。だがここで予想外の出来事が起きた。近くにある神殿が、浄化の木であるジャニスを発見しご神木として祀り上げたのである。  田舎町にある小さな神殿の神官たちは、王都で起きた王太子に関する騒動について知らされていないようだった。ただ自分たちが発見した、貴重で大切な浄化の木を守るために自ら考え、行動したものらしい。  ジャニスとて大切にしてもらえるのは、もちろん嬉しい。だが天より授かりし神木には何人たりとも近づいてはならぬといわんばかりに、ジャニスに近づくすべてを排除する姿勢については疑問を持たざるを得なかった。  まず閉口したのは、小動物除けの札を枝のあちこちにぶら下げられたことである。おかげで定期的におしゃべりに来てくれていた渡り鳥たちが枝に止まれなくなってしまった。 (せっかく仲良くなれたのに、なんてこと。これでは、神官さまたちが来る前よりも寂しいではありませんか)  さらに困ったのは、ご神木であるジャニスを大切にするあまり、必要な剪定までもが行われなくなってしまったことだ。  浄化の木であっても、人間の側で大きく成長していく木である以上、剪定作業は不可欠である。自然のままに放っておくことが最善というわけではない。神殿に保護される前は、近くに住む住人や通りすがりの旅人たちが、ちょうどいい具合に枝や葉を利用してくれていた。それはジャニスにしてみれば、散髪や爪切りに近い心地よさだった。それが今やご神木への一切の接近が禁じられている。  このままでは吸収した毒を浄化するどころか、不調をきたし木の幹そのものが裂けてしまう。困り果てていたジャニスの元にやってきたのが、魔術師カラムであった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!